わかるけどわからない

tokoi
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・木曜

今日はたぶん暇だろうなあ、と気が抜けたまま店に向かう。公園をぬける道すがら、なんだか聞き覚えのある鳴き声がするけどまさかね、と疑いながらも声の主をさがす。やっぱりアカゲラがいた。岩手なら驚かないけど、こんな都内の街中にも普通にいるのかとちょっと意外だった。

長い冬休み明けということもあり、仕込みや袋詰め作業、商品写真撮影など、やることリストがずらりとあって果てしない気持ちになる。ひとつずつやればいつかは終わる、大丈夫大丈夫、とつぶやきながら淡々とすすめる。いつかは、というか、ほんの数時間で終えられることだし、実際に3時間くらいでちゃんと終わったし、大したことではない。それはわかっているのに、なぜ取り掛かる時はいつもこんなに果てしなく感じてしまうのだろう。実際は大したことないのになんかうわあって思ってしまうのってもったいない気がするので、このゆがみはどうにかしたいなあと思う。

やるべきことを全て終えたらテイスティング。新年一発目の焙煎で、なんだか挑戦したい気持ちになり、いつも中深煎りくらいを狙っている自分としてはかなりぎりぎりのところまで攻めた深煎りのパプアニューギニアをおそるおそる点てることにする。粉に挽いた時点で香りを確かめたときは、やっぱりさすがにやり過ぎたなという印象で、あちゃーと思ったのだけど、液体になるとぽってりした苦さがかなり良い出来で、カウンター内で静かにガッツポーズ。失敗して生豆を無駄にしたくないという気持ちが強く、いつも手慣れた安全圏内で焼いてしまうけど、たまにはこうして思い切ってはみ出してみることも大事だなと思う。まだまだ今より良くなれるんだから怠りなさんなという自戒もこめて。

今日からエプロンに男ブラさんのピンズを付けて店に立つことにした。珈琲を淹れるとき、ポットを持って俯いた視界の端に入るとなんだか心強い。無くしたり落としたりしないように気をつけよう。

レモネード用のレモン、ゆずマーマレード用のゆずなど大量の柑橘類をカットしたら、帰路ポケットから何かを取り出す時などにふんわりいい香りがして幸福だった。身体の芯から冷える寒さだったが、よく晴れた夜空で、店を出て猫又坂を下るとき、オリオン座が綺麗に見えた。

・土曜 

昼間、家を出る時は、おっ、なんていい天気、これから雪が降るなんて嘘でしょ、などと呑気に思っていたのだが、みるみるあやしげな灰色の雲が空を覆い、15時ごろからすっかり降られた。みぞれのような、かたまりの雪に始まり、次第に雨に変わり、止んだかなと思ったらまた雪。こういう日はだめだ。カウンター内で立ったまま寝ちゃいそうなくらい静か。特に、新しいお客さんは来ない。かろうじて常連さんがテイクアウトをしてくれた。ありがたい。暇を持て余すのは苦手なのでどうにかしたいと思うけれど、自分だってこんな寒い雨雪の日は外に出たくないので、無理に来てくださいと言うのも違う気がする。それが良いか悪いかは置いておいて、天気や気温に行動を左右されるのは、いまだ人間に残された動物らしさのような気がする。気温といえば、いまだに冷房と暖房で同じ気温なのにそれぞれ寒く感じたり暖かく感じたりするのが不思議。人間の気温の認識というのは、絶対的なものでなく相対的なものだから、というのは何となくわかる、でも腑に落ちるほどちゃんとわかっていない。わかるけどわからない。なんだか面白い。

@tecolote
気が向いたとき、日記を書いています。