大仏はデカかった。それでいて精巧だった。手のシワや布の流れ、螺髪に心で唸る。膝下に、大きな蓮の花の形をした台座が見えた。
大仏殿は、大仏の周りを時計回りにぐるっと1周できる造りになっている。そこに先程見た台座の花弁と同じものが展示してあったので、近くで見てみると絵が彫られていた。私はオタクなので、「神絵師による神作画、絵が上手い」と思った。昔は今ほど絵が上手くなるための創作tipsを知る機会はなかったはずだ。絶対。なのになんだこの美しさは。神、とさせていただく。
もう少し進むと木造の像があり、怖い顔をしていてまるで叱られが発生したかのような気分になった。
先日、同人誌の表紙の目線について友達と話した。やっぱりキャラクターが目を開いてこっちを見てくれてる方が嬉しい気がするとか、複数のキャラクターみんながこっち向いてたら怖い気がする、いやあんま怖くないかも、といったような内容だったはずだ。
怖い顔をしていたら、怖い。
当たり前すぎる。
決してそのせいではないが何故か気分が悪くなってきた。この場が神聖な場所であることを思うと、私の中の邪念的な何かが浄化でもされているんじゃないかと思えてくる。ここを出た後の私は清められた私かもしれない。
そのままフラフラ歩いていると、謎の列が見えてきた。列の先には天井まで届く柱があり、その根元には四角っぽい穴が開いていた。列の先頭の人がワクワクしながらその狭い穴を潜ろうとしゃがんで頭を突っ込んでいる。
その穴はなんと、奈良の大仏の鼻の穴と同じ大きさなのだそう。なんだかご利益がありそうなので挑戦することにした。列に並ぶ。私よりも体型の大きい男性が前に並んでいたが、様子を見て途中で諦めて列から抜けてしまった。私は不安になってきた。が、穴が縦長なので、身体を横にすれば抜けることができた。お清め度がアップしたと思いたい。
その後、来た道を帰った。南大門の前にまだあの鹿達がいたら、とふと思ったが、流石にいなかった。金剛力士像を先程よりも落ち着いて見れた。こちらも布の流れが美しい。
南大門から見て、左手側はお土産や甘味処がずらっと並んでいる。右手側は間隔が広めの並木を挟んで別の通りがあり、そこにはベンチがあった。歩き疲れたので私はそこに腰を落ち着けた。足を休ませながら、観光客と鹿をぼうっと眺めた。
すると目の前の木のそばに、大きな鹿が寄ってきた。何気なく見ていると、木の根元で放 尿し始めた。
やけに鹿のシモの部分を見る日だなと思った。
すっきりした鹿は少しソワソワと身体を動かした後、その場に座り込んだ。先程尿をした場所の真上だった。
またもや小さな衝撃が降りかかる。自分の尿の上に、座る?!
これも後から調べたが、ヌタうちといわれる繁殖期によく見られるオス鹿の行動がある。水たまりに放尿してからその上に座り、泥遊びをすることで匂いをつけるのだそう。
鹿の繁殖期は秋頃だそうだ。ちょうど今ぐらいだ。だから鹿が鹿のお尻に頭を突っ込んだりしていたのだ。あれも匂いを嗅いでいた。
私は成人向け二次創作を読める年齢のオタクなので、オメガバースのことを思い出した。オメガバースとは、人間に「アルファ」「ベータ」「オメガ」という第二の性別がある世界線の話だ。
オメガという性別には「ヒート」と呼ばれる強めの発情期があり、そのときにはフェロモンや匂いを大量に放出する。ヒートを起こしたオメガは巣作りをする設定もある。番のアルファがいる場合、その人の衣服や私物をかき集めて匂いを嗅ぎ安心を得るのだ。アルファにも「ラット」という設定がある。アルファの発情だ。ちなみに、ラットは英語のrutから来ていて、オスの動物、特に鹿(!)の発情期を指す言葉だそうだ。
オメガバースって鹿のような動物の生態を参考にしたようなところがあるんだな...となんだか腑に落ちるようだった。動物のことを知らなさすぎて今気がついた。
国宝を見てなんだか清まったはずの私だが、鹿に目を奪われ、何故かオメガバースへの理解を深めることとなった。
おわり
おまけ
南大門。デカい。すぐ目の前には2匹の鹿。

大仏と神絵師の彫刻が施された台座の花弁。

叱られている気持ちになった像。キッとした顔に対して手や腕の曲線が柔らかい。

大仏の裏側。私も同人誌を作る時は裏表紙までこだわりたいなと身を引き締めた。

見返り美人。
