「絵はすぐには上手くならない」/アドベントカレンダー「私の一冊」

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 こちらはいとこんさん( @itokonn.bsky.social)主催のアドベントカレンダー「私の一冊」に寄稿する記事になります。私は12/20を担当いたしました。

https://adventar.org/calendars/10817

ジャンルを問わないという事でしたので、自分の専門分野であるところの絵の技術に関する本を取り上げさせて頂きます。

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「絵はすぐには上手くならない」

著:成富ミヲリ

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 ーー絵に関わる仕事をしています。

 そういう話をすると、大体の方から「子どもの頃から得意だったんでしょ?」とか「才能があるんだね」と言われるのですが、胸を張って断言できます。そんなことは全くありません。それどころか絵でお金を頂くようになり、中年に差し掛かった今なお、絵を描くことへの苦手意識から抜け出せないまま手を動かす日々を送っています。

 こんなことを書くと苦手な癖に仕事にしていいの? と言われてしまいそうです。でも、今まで出会って来た方々との会話を振り返ると、よくよく話を伺ってみればとてつもなく絵が上手い方ですら実はそう思っていたというパターンは思いのほか多かったようにも思うのです。

 一言で「絵を描く」と言っても、蓋を開けてみればその言葉の中には多角的な意味が含まれています。資料を見ずにイメージを形にすること、アニメーションのようにものの動きを描くこと、対象を精密に描くこと、美しい色でイメージを表現すること、的確なデフォルメでものを表現すること、画面をデザインとして成立させることetc……これらは本来別々の技能だからです。ですから、ある分野において高い技術を持っている人も他の分野においてはからきしということは普通に起こり得ます。基礎的なデッサン力があればある程度の応用は効きますが、楽にできるかと言えばそんなことはありません。ごく稀にあらゆる分野で能力を発揮する超人もいますが、ほとんどの場合そう簡単にはいかないでしょう。

 絵が上手くなるためには、この中から自分に必要な要素を見極めて訓練を重ねていく必要があります。人間誰しも得手不得手はありますから、真面目に練習をすればするほど、自分の苦手分野がより鮮明に見えるようにもなっていきます。私を例にすると緻密な描写や色彩や立体の把握が得意な代わりに、線で素早く動きや形を捉えたりデフォルメするのが苦手……といったような具合です。得意分野に関しては自信を持って人に教えることもできますが、苦手分野に関しては本当にからきしで、これが冒頭の「苦手意識」という言葉に繋がっていきます。ついついできることよりもできないことに気をとられてしまうのが人間というものです。

 すっかり前置きが長くなりましたが、ここからは今回紹介する本についてお話をしていこうと思います。

 まず、この本はよくある技法書のように絵の描き方のテクニックについて解説した本ではありません。その大前提となる「上手い絵を描く」という能力がどういうことなのかを詳しく分析し、適切なトレーニング方法へ導いてくれる指南書のような本です。内容は美術の世界にありがちな根性論ではなく全編ロジカルに書かれており、ついつい頭で考えすぎてしまい手が止まってしまう人にこそ読みやすいものとなっています。

 私は今までプロアマ問わずたくさんの絵を描く方とお話する機会を持ってきました。皆さんのお話を伺っていると、漠然と「絵が上手くなりたい」という気持ちだけが先行して必要な練習方法を採り入れられていないパターンが非常に多いように見受けられました。(この事に関しては本の冒頭で著者の成富ミヲリさんが書いていらっしゃいますし、何故そのような状況に陥るのかについても日本の美術教育の実情を踏まえ詳しく解説されていますので、興味のある方は是非読んでくださいね)

 ゴールがわからないまま間違った練習方法を続けることは「自分には才能がない」と決めつけて自信を失い、ひいては絵を描くこと自体を嫌いになってしまう原因になります。せっかく芽生えた創作活動のモチベーションをそんなことで失ってしまうのは本当にもったいない事です。

 私自身、若い頃は漠然と「絵が上手くなりたい」という気持ちで地図のないまま手を動かしていました。元々理屈優先のタイプでそれほど手先も器用ではなかったため、当時はかなり苦労しました。その苦労から得た部分も無いわけではないので、してきたことに対して後悔はしていません。けれども、もう少し早くこの本に出会っていればもっと効率的に絵を学べたのに! と思わずにはいられないのも本音です。

 そういう訳で、道楽で何十冊と技法書を読んできた私がおすすめの技法書を聞かれた時に真っ先に挙げるのがこの本です。絵が上手くなるためにはまずは頭の交通整理から。それから先は一歩ずつ着実に歩いていきさえすれば、結果は必ずついてきます。

 かつての私のように、あまり器用ではないけれど絵を描いてみたい。上手くなりたい! と足踏みしている方にこそおすすめしたい一冊になりますので、絵を描くことに興味のある方は是非手にとってみてくださいね。

 皆さんのハッピーで充実した創作ライフを心より応援しております。それから、描いた絵はじゃんじゃん私に見せて頂ければ嬉しいです!

O(wonome)

 

 

 

@teno
絵を描いたり文をしたためたり映画を観たり