先日、外を歩いていたときのこと。ふっと鼻に甘い香り。煮物を炊く醤油の香りでも、お夕飯のお味噌汁の香りでもない。花の香りだ。でもなんの? あまり花に縁のある生活を送っていないので、香りの判別は難しい。思わず周りを見渡したら、通り過ぎようとしていた公園の入口に藤棚が。咲き始めた藤の香りが風に乗って、折よく風下にいた私のところまで届いたようだった。
ああ、藤ってこんな香りなのか。そんな発見とともに、しみじみ春を感じる。桜が終わり、菜の花が咲き、木蓮が花開いて、躑躅が咲いて、藤が咲く。それなら菖蒲もそろそろだ、花水木もその頃だったか。過ぎれば薔薇の季節が始まる。そうしている間に梔子や紫陽花が咲いて、季節が変わっていく。
知っている花をこうして指折り数えてみると、なんだか少し楽しくなる。植物には詳しくないし園芸も嗜んでいないから、日頃の通り道や、ふとした外出で見かけた花を愛でるくらいなものなのだけども。それでもこんなに楽しめるのだから、成る程「花見」という行為が愛されるわけである。
私は夏が苦手だし暑さは年々過酷になるから、連休が明ける頃から心身ともにぐったり憂鬱になるだろう。でも幸いなことに、梅雨どきに咲く花が好きだから。花を愛でて、こころを慰めるのもいいかもしれない。
それでも色気より食い気、花より団子な性分である。梅や山椒の実、枝豆に新生姜、そして旬を迎える夏野菜たち。春の美味を堪能している真っ最中だが、夏の旬ものにも思いを寄せてしまう。欲張りだから、花も団子も楽しみたいのだ。