いなかだとか、都市だとか

thewhitenotes
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私は、関東から出て暮らしたことがほとんどない。

台南で1年3ヶ月暮らしたあの日々だけで、それ以外は何もない。

残念ながら、柏を「自分のいなか」と呼んでいたのだけれどそれは田舎ではないらしい。国道6号が近くにあり、あの辺りの地主さんのビルに挟まれた細い通りから見上げる空、あれ以上澄んだ空を長いこと知らなかった。あそこは私にとって聖地だった。歩いて行ける範囲しか知らず、毎日二層式洗濯機と小さなテーブルを行ったり来たりして、ニベアのハンドクリームを塗りたくっては宿題や課題をやっていたあのかわいい毎日は周囲に顔見知りの自営業者に囲まれていて、いわゆる下町風情のある故郷だった。でも田舎ではないらしい。田舎というのは何だろうか。明らかに生活を中心とした場所を指す言葉だと思ってきたのだが、どうもイメージがすれ違っているらしい。

今は閉店してしまった柏そごうの裏道を通っていくと、足しげく通った図書館がある。隣には市役所があり、のどかな風景である。でも違うらしい、私はあれをのどかな風景だと思ってきたけれど、どうも治安の悪い都市でしかないらしいのだ。

見える範囲、歩ける範囲しかあの頃は知らなかった。たくさんの人が行き交うあそこでは、幼い私にほかの地域ではどうなのか教えてくれる人がたくさんいた。でも私はあの場所しか知らなかった。

私は結婚してほかの都市へ移った。更にのどかな地域だと思った。草がたくさん生えていて、雨が降ると泥が流れていく。そしてとにかく、住んでいる人しかいない。なんとさみしいところだろう、夫は地域の人をたくさん紹介してくれた。完全に住宅街で、商店街というのは遠くに行かなくてはならないことがわかった。でも、ここは規模としては大都市らしい。

ほかの人の視点から見た都市と、私の抱いている都市観はぜんぜん合わないらしい。