「あの…辛くはありませんか?」
「…え?」
1人目の英雄討伐後のマグメルにてルゥが薫に問いかけた。
突然の事で薫はキョトンと首を傾げる。
「心の隙間を埋める時間を作ってもいいと思うんです。」
確かにジョゼと過ごした過去の世界はとても希望に溢れていた。
ジョゼ自身も希望の持てる場所にしたいとそう願っていた。
その結果があの悲惨な結末だ。
考えるだけでも胸が張り裂けそうになる。
手に残る心臓の感触、確かに彼女はあそこで足掻き希望の場所にしようと奮闘していたんだ。
それがまるで泡のように消えてしまったのだから、死は救済といえどまたこのような結末を見届ける自信は薫にはなかった。
薫はルゥの言葉に甘んじて受け少し休暇を取ることにした。
向かった先は生まれの土地水没都市。
バディを組まずに無防備だと思ったが今は1人になりたかったのだ。
心はずっと雨が降っているのに天気は皮肉にも雲一つない晴天だ。
水に映る空がとても綺麗に輝いていた、しかしそれを虚ろな目で薫は眺めていた。
過去を変えることを自分はできない。
受け入れなければいけないものなのに背中にズッシリとその重荷は重なり続けている。
両膝を地面に預けただ水溜まりに映る空を見ていた。
「…役立ず。」
そう薫はポツリと呟いた。
戦いの最中余計な記憶に惑わされる事が多くなった。
武器を振るう時だけは何にも邪魔をされなかった筈なのに。
駄目だ。自分には目を逸らしてはいけない使命がある。
幸せにかまけて見失うな。
そう自分に薫は言い聞かせていた。
「…ずっと抱えていたもののはずなのに…どうしてこんなにも重く感じるんだろう…。」
薫は責任感という重荷に耐えきれず身体が横たわってしまっていた。
ザァと雨が降り始め薫の身体を雨粒が強く打ち付ける。
その時。
「オル?」
声をかけられた。自分をこう呼ぶのは1人しかいない。
幼馴染の理央だ。最近マグメルに居着いている。
薫は声をかけられたことによりハッとし上体を起こす。
「酷く濡れているな。風邪ひくぞ。帰ろう。」
理央は薫の顔に付いた泥を拭いながら言う。
その言葉に薫は首を横に振った。
「…リオは優しいですね。いつもそうやって聞かずに居てくれるんですから。」
薫の言葉は続く。
「…優しくされると困ります。」
薫は理央から顔を背けさせながら言う。
「聞かれたくねぇ事なら聞かねぇ。でも怖がらなくていい。」
薫の手は震えていた。その手を理央は優しく握ってくれた。
「…僕には…成し遂げきゃいけない使命がある。目を逸らしたことなんてなかったんです…。」
薫の言葉は続く
「でも不安になったんです。マグメルでの幸せな思い出が溢れすぎて僕は使命から目を逸らしそうになるんです。」
薫の声は震えだんだん小さくなっていく。
その声を理央は聞き逃さなかった。
「一瞬でも惑わされる自分が許せないんです。……なのにそう思うほど過去の救えた命は救えなくて役立ずなのに何もかもが重くて…っ…」
薫は雨に紛れて泣いていた。
雨は容赦なく薫と理央に振り続ける。
「…僕にはっ…とても抱えきれない…リオもこんな思いを抱えて戦っているんですか……?」
薫から絞り出された言葉。
理央は薫を優しく抱きしめた。気が付けば雨は止んでいた。
雨上がりの気持ちのいい空気が流れ込んみ2人を包み込んだ。
「1度死んだとはいえ……幸せなのも不安なのも生きてるからだ。お前は役立ずなんかじゃない。」
理央は薫の背中を擦りながら優しく言葉にする。
「たまによそ見したって。しんどいと思ったら逃げればいい。」
理央はフッと笑みを浮かべ薫と目を合わせる
薫は俯きながらも不安そうな顔をした。
「逃げるのは…怖いよ」
薫は弱々しく呟いた。
「だったらいつでも一緒に逃げてやる。…一人で抱え込むな。」
その言葉に薫の重荷がスゥと消えていった。
理央は無理矢理にでも薫を立ち上がらせた。
「そ、そんな約束しないでくださいよ…!」
そう言い薫は顔を隠しながら理央に背を向け走り出した。
「ちょっとは頼りにしてくれたっていいじゃねぇかよ!」
理央は薫を追いかけ薫の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。