イサムノグチ エッセイ
あかりは重量において軽い。軽さと光とをいっしょに運んでくる。しかしぼくらにとってさらに大きな意味をもつのは、それが投げかける光の質である。紙(手漉き)のおかげで、そこには現代の完璧すぎる素材のなかには求めても得られない人間のぬくもりがある。蝋燭さえ消え去ったにもかかわらず、そのまたたく炎の精神が、いまだに紙と竹の輪の温かな手触りのなかに埋め込まれて残っているかのようだ。
ぼくらのとげとげしい機械化された生と対照をなすものとして、あかりはかつてのより静かだった時を呼びもどし、ぼくらをくつろがせる。
近代テクノロジーの可能性すべてが失われるとき、なるほど人はもう一度基本的な物事、基本的な素材、基本的な思考に立ちもどる。すべてをもう一度、最初から始める。
自分自身が貧しいとき、貧困のなかに善をみるためには精神的に強くなければならない。