うちの22歳のネコ♂がトイレに行くたびホエホエ鳴くので病院に連れていったところ「年齢だし腰痛でしょ」と言われ、そんなもんかな?と思った。次の月、どうにもチンチンをペロペロペロペロなめるので腰痛じゃねぇな、と再度連れて行くと癌だった。
ネコには珍しい移行上皮癌。
膀胱の上に癌ができている。2㎝ぐらいの腫瘍でネコの膀胱の上部に腫瘍ができて良性ってことはまず無いそうだ。膀胱にできてるものだから、尿がでにくくてホエホエ鳴いて、チンチンもペロペロペロペロなめてたのだろう。
移行上皮癌は見つかったらだいたい余命100日という、ざっくりした宣告をうけた。年齢も年齢なので手術は最初から選択肢になかった。対処療法をするにも、もともと腎臓の機能が7割死んだ状態で15年生きてるネコ。投薬すると腎臓に負担がかかるという話をされた。どうしてもと言うなら毎回血液検査をしてから薬をきめることが条件になる。ただ投薬しても炎症を抑えられるのは1日程度。余命100日ということは、それを100回。血液検査だってストレスだろうに、それを100回。
もういいです、と。
そんな金銭的余裕もないし病院嫌いの22歳ネコ。人間でいえば104歳。ホントに尿がでなくなったときにまた考えよう、つうことで家で養生させることにした。尿が出なくて膀胱にパンパンにたまると尿毒症になる。尿毒症がホントにつらいのは知ってるので、その日がなるたけ先延ばしになればいい。いまはもう家で普段通りの生活をしようと決めた。
病院から帰って母に言う。母は言う。「身体がどこも悪くない22歳のネコなんかいない」それはその通りだ。妹も言う。「22歳のオス猫なんか化け猫や」それもその通りだ。病院に通いつめて疲れさすのも可哀相だし、家で看取ればいいじゃないかと。そう決めてたので、そうしますと。
22歳の余命100日のネコを家で看取ります、と決めた。
親しい友人には「つうわけで、ちょっと遊びにくいっス」て話をした。おりしもコロナ。昔みたいに頻繁に呑みに行ったり旅行いったりはできない状態だが、Gotoだかなんだかでお誘いはあったが断った。小学校からの友人は「いまは一緒にいたり。それはさておきTENET見にいかん?」と言われ余命宣告をうけた次の週に行った。TENET面白かった。
その日は友人といろいろ話した。
ぶっちゃけ現実味がないと、トイレに行くたびホエホエ鳴かなくなってチンチンをペロペロペロペロなめることもしなくなった。ご飯もモリモリ食ってるし水も呑むし「外だせ!外だせ!」と騒ぐ22歳ネコがホントに余命100日とは思えないって話をした。
「病気や!って言いたかったんじゃねぇか?」
さすが化け猫、手の込んだことをなさる。「今は一緒にいとけよ、みたいな」
「なるほど」
22年飼ってるネコが余命100日となれば呑みに行っても楽しくない。遊びに行く気にもなれない。TENETは楽しかったけど余命100日って言われた次の週なので、まだ死なないと思ってたからだ。
ケータイをとりだす。
「余命アプリってのがあってさ」
「マジかよ」
「正確には試験まであと何日みたいなアプリなんだけど」
「それは余命じゃねぇよ」
「アプリによると、こう」
「そーゆーの辞めろよ」
「この日にちをぶっちぎって欲しいという願いを込めて」
「ぶっちぎるんじゃねぇの?食うんでしょ?食う生き物は死なない」
名言を頂く。
「つうかずっと家にいて寝てるネコを見てても暇でさー。言っちゃあなんだけど、ずっと寝てんのよ。ずっと寝てるけど遊びにいってもヘコむじゃん?呑んでも楽しくないじゃん。時間持て余してんだよ最近」
その友人はFF11を18年プレイしてる。
「ほったらFF一緒にやろか?って言いたいけど、いまさら初心者のレベル上げに付き合いたくない」
さらなる名言をいただく。「ネトゲのドラクエやってなかった?」
そういややってたなぁとスクエアエニックスアカウントにつなぐと、データがまだ生きていた。
「ちょっとやろうかな」
そんな感じで再開したドラクエ10だった。
ドラクエ10は5年前WiiUではじめた。
母と一緒にはじめた。母は自キャラの名前を当時死にそうになっていたネコの名前にしていた。タマオは食べるのが大好きな面倒見のいい茶トラで、余命を告げられたネコと同い年。ふらっとうちに住み着いた元ノラだった。2匹は仲が良く、ひっついて寝てる写真が何枚もある。若い子には信じられないだろうが、22年前は写メがなかったので、2匹の写真は写ルンです!で撮っていた。ケータイで写真が撮れるとなったとき「これで無尽蔵にネコの写真が撮れる!」と興奮したのを若い子は知らないと思う。ネコ飼いにとって写メは画期的な発明だった。
ともかく母の自キャラはネコの名前だった。
タマオは食べるのが好きだったがドラクエ10をやりはじめた頃は自力で立つこともできなくなっていた。
ドラクエ10は最初に種族を選ぶのだが、オーガ族という物理全振りみたいなキャラにしたのはゲームのなかだけでも元気だしてという意味だった。今のドラクエ10は種族で数値に変化はないが、当時戦士やバトマスのような前衛職業はオーガ族だった気がする。
うちの母はドラクエに関してマジなので、最新作11も全職業レベル99まであげたし、いま遊んでるドラクエビルダーズ2もクリア後イベントまで網羅したあと「物足りない!」といって、もう一周して再度クリア後のイベント完了させてからリゾートホテルを作ってる。意味はわからんがリゾートホテルを作ってる。
そんな母なので当時10にも本気だった。
当時からオンラインにそこまでの必要性のないゲームだったので、ひとりでレベルをあげクエストをこなし、職人としても手抜きはなかった。そんな母がドラクエ10をやめたのはネコが死んだからだ。自キャラの名前にしてたタマオが死んでしまったとき、ゲームのなかのオーガ族のタマオというテキストがつらくなったという。
ネコ飼いも犬飼いもウサギもリスもハムスターも。ペットを飼って看取った人間は後悔がある。
もっとああしていれば、このタイミングで気付いてやれば、ホントはこうしてほしかったんじゃないだろうか。
考えても考えても答えのでないことで頭がいっぱいになる。何回やったって慣れるものじゃない。見送ったペットは犬ネコはじめいろいろいるが、どの子にも後悔がある。
タマオは食べるが大好きだったので、針をとった注射器で給餌していたのだが、はたしてそんなことしてほしかったのだろうか?母は今でも考えるらしい。
「考えても詮無いことやで」
と言うようにしてるが、そう言われて納得できるものじゃないのはわかってる。考えても意味はない。考えても、どうしようもない。言葉が通じない生き物と生活するというのはエゴとエゴのぶつかりあい。きっとキスしてほしいに違いない!と毎日キスしてるが、ホントはデカい顔が近づいて怖いと思ってるかもしれない。
わかりあえないまま暮らしてる。
横になった体勢の二の腕に余命100日のネコがアゴをのせて寝る。年齢をとると寝息がうるさくなる。ゴロゴロ音も大きい。
日がな一日寝てるネコと寄り添って、ずっとドラクエ10を遊んでる。
仕事して帰ってネコとくっついて日々を過ごしていた。
夏は24時間冷房をしてた。秋になって冷房とめて、足元用ホットカーペットにタオルを巻いた。ネコはずっと寝てた。
食欲はずっとあった。
ブルーチーズやカニ、匂いのきつい塩辛いものが好きなネコだった。覚えさせたのも悪かったが、いちど好きになったものを忘れない執念深さのあるネコで食べて帰った日には口の周りをしつこく嗅いだ。カニミソをあてに昼から呑んでると、すこしでいいので分けなさいと頭突きをしてくるようなネコだった。
ちゅーるは好きじゃなかった。
あげ方が悪いのか、うちのネコは全員ちゅーるが好きじゃない。冷めた目でみる。「そんなチマチマしたんじゃなく皿にいれろ」みたいな顔でみてくる。うちで飼うとネコであることに誇りある王様のようなネコになる。
寝てるネコの横でドラクエを遊んでた。ドラクエ10には仲間モンスターという味方になって戦ってくれるモンスターがいる。ある日、自陣モンスターの名前が我が家の歴代ペットの名前になってることに気付いた。母と同じ失敗をするわけにはいかない。人は想いをつないでいくのだ。鬼滅の刃でそんなこと言ってる。急いで全モンスターをポケモンの名前に変更した。
「これで大丈夫だから」
と言ったら年寄りネコが
「知らねぇよ、お前ホント馬鹿だな」
と言った気がする。
言葉は通じないがたぶん言ったと思う。
11月17日は電気グルーヴがいうところの鬼日だ。
11月18日、配信限定ライブをするとの発表があり、すぐ申し込んだ。12月5日にするというライブを楽しみにしてた。
家でライブを楽しめるのは、年寄りネコを飼う身としては見られるのはありがたいことだなぁと思ってた。
12月5日土曜日、仕事から帰って年寄りネコと一緒にライブを見た。最初の曲はset you free。鼻から摂取フリー。22歳のネコはうちに来た日から電気グルーヴを聞いてる。ちゅーるに興味ないネコは電気グルーヴにも興味ないので無の表情。ネコを撫でつつ配信限定ライブを見入っていた。酒をのみながら身体をゆらしてた。終盤でnothing gonna change がかかり、文字通りむせび泣いた。nothing gonna change nothing gonna change。なにも変わらない。
去年、電気グルーヴにあったアレコレに心揺さぶられた古参にしてみたらライブでめったにかからないnothing gonna change が装いも新たに、このタイミングでかかってくるから泣くしかなかった。
瀧が nothing gonna change nothing gonna change と歌うたび、大丈夫大丈夫変わらない変わらないとネコを抱きしめた。
泣きながら抱きしめられても余命宣告されてるネコは無の表情だけども。
ライブ終わって10時ごろ、ネコはご飯を食べなかった。全然大丈夫じゃなかったし、変わっていく。
食べなくなったら終わりだと知っている。人間でもネコでも犬でもリスでも食べなくなったら終わりだ。
次の日も仕事だが適当にいって午後で帰って、いつもよりかがやいてるサポートなご飯をあげたら食べた。
「ビビらせんなよ。食うじゃんよー」
ネコ用鰹節をかけたご飯をもりもり食べて寝た。年寄りネコはいつも顔の横で寝るネコだった。二の腕を枕だと思ってる。でもその日は一緒に寝なかった。トイレの前で寝ていた。ご飯も食べるし、おしっこもする。水ものむ。
「食べてるから大丈夫」
と思って出勤して定時で帰った。カニとチーズと猫用厳選テリーヌと、ささみを買って帰った。なんでもいいから食べればいい。22年間で食べたがったものを買って帰った。
「そんな量は食わんで」
と母に言われたが、どれかひとつでも食べてくれたら御の字だと思ったのだ。だがどれも食べなかった。口に近づけても動かなかった。あんなに好きだったカニに見向きもしない。
「寝かせてください、頼むから」と全身で訴えている。
撫でられるのも嫌がった。あんなにくっつきたがるネコだったのに、なにかとトイレの前にいきたがる。トイレの場所を覚えないことに定評のあったのに急に目覚めたようだ。目覚めなくていいのに。
次の日の朝、ネコを見て「あ今日死ぬんだな」と思った。
いままで見たことない呼吸数でぐったりしていた。ああ今日なんだ、今日がその日なんだ、と思って職場に電話して適当なこといって休むことにした。
同居の母が部屋にはいってきて
「あー、今日やな」と言った。
近くに住んでる妹が娘を保育所に預けてからやってきて
「もう死んだん?」
「まだや」
って話をした。
「22年もようがんばったよ、えらいよあの猫は」と言いながら3人で朝食をとって、母は出勤し妹は家に帰り、年寄りネコの横にすわった。
折しも電気グルーヴ配信限定ライブのアーカイブがその日までだったので、かけた。
Set you Free Set you Free 鼻から摂取フリー
「この子は今日解放されるんだなぁ。最後に聞いた曲がSet you Freeとか、お前は幸せなネコだねぇ」
とか言っていた。
その日にネコは死んだ。
苦しんだのは3日程度。おしっこは最後まで出てたし、最後に食べたのはモンプチ18歳用かがやきサポートまぐろしらすにネコ用鰹節をかけたヤツ。良い終わり方だと思ってる。悔いがないと言えばウソだが22年も生きて最後が穏やかだったのだから合格点といったところだと思ってる。
ネコが死んでも忌引きはないので次の日も仕事をしていた。
体調不良と言って休んだので「大丈夫っすか?」と同僚に聞かれ「たぶんコロナ!」「マジかーーー」って話をしてた。
親しい友人には「死にました」と連絡をいれて「おつかれさん、今度ご飯食べよう」という話をしてる。
なにがどうなるわけでもない。
22年間一緒にいたネコがいないのは堪えるが、だからといって仕事は減らない。むしろ年末で増える。
酒の量は増えた。
あとドラクエをしてる。ずーーーっとドラクエをしてる。
ネコがいたころと同じ体勢でゲームをしてる。ペットロス症候群の症状として幻聴があるらしい。生きてたころのネコの声が聞こえたり重みを感じたりするらしい。22年も一緒だったのだから、そんなことは当然ある。
夢も見る。
今日は新参ネコとケンカして顔に怪我した年寄りネコの夢で目が覚めた。夢占いによると人間関係がピンチらしい。ネコが死ぬよりピンチなことはないのに、なにを馬鹿なこと言ってやがると鼻で笑ってる。
日常生活だってピンチだ。酒は毎日呑んでるし、鍵をなくしたり、データを飛ばしたりしてる。不要なものを買いまくったりしてる。ドラクエ10の自キャラのコーディネートなんて、どう考えたって不要だけども買ってしまう。ネコが死ぬと人間はそうなる。22年一緒にいたネコが死んだんだから当然のことだ。22年も一緒だったネコが死んで通常通りの生活ができるはずがない。
ダメになるに決まってる。
酒のんでドラクエばっかしてる。無の表情でダークトロルを狩ってる。ネコが生きてたころと同じ体勢で、たまにいないネコに話しかけながらレベル上げをしてる。「仲間モンスターのレベルがアホほど上がるねぇ」と言ったところで返事はない。新参ネコは怖がって近づかない。もう仕方がないからレベル上げをするしかない。ドラクエしかすることがない。ダークトロルに背中からアタックして真やいばくだきをくらわしたら、あと体当たりしてたら終わる。それを繰り返してる、ずーーーっと繰り返してる。
余命100日なんて余裕でぶっちぎると思ってた。
平均寿命13.7歳のオス猫が22年も生きてた。余命宣告されてから5年ぐらい生きると思ってた。それぐらいのことは余裕でやってくれると思ってた。なんの根拠もなく26歳まで生きると思ってた。なんで思ってたのか忘れたが26年は生きる。それぐらいのネコだろうと思ってた。
余命100日と宣告されてから90日で死んでしまった。獣医の言うことはほぼ当たる。余命アプリは削除した。
最初にトイレでホエホエ泣いてたころに癌だとわかっていたら130日生きたことになるので勝ち負けで言ったら勝ちだ。お前はそういうネコだよ勝ち続ける猫だったよ、と骨壺に話しかけてる。
あとドラクエをしてる。無の表情でレベルをあげてる。
TENETみたいに時間が巻き戻るのなら、100日前にいって写真館にいって世界一可愛いネコの世界一かわいい写真を撮りたい。
心残りがあるのなら、せっかく世界一可愛いネコと暮らしてたのに飼い主が致命的に写真が下手なせいで、世界一かわいい写真がないことだ。悔しい。5桁のペースで写真があるのに、どれもあの子の世界一の可愛らしさを映し出してない。火葬するとき「写真を加工してペンダントにするサービスがありますが」と言われたが断った。どんな写真も生きてた頃の可愛さに劣る。
それが悔しい。
世界一可愛かったのに。写真が下手で馬鹿な飼い主で悪かったなぁって思いながらドラクエをしてる。
デスディオ暗黒荒原をぐるぐるぐる回ってる。
round round round around you 衛星みたいにまわってる。