20なりたてから22くらいにかけて、付き合っていた人がいた。その時私には夢があって、どうしても北海道から上京したかった。元々自分のお金で週に1回飛行機に乗って東京に通うダブルスクールをしていたのだけど、その人は首都圏に住んでいたので、本気ならこの人のところに転がり込んで、バイトしながら夢叶えるしかないと思って、すぐに身辺整理を済ませて住民票を移した。
相手は学生で、親のお金で生活し、自分のアルバイト代で遊んでいた。同居してしばらく経つと引越しをすることになり、家賃を折半することになった。6万円の家賃を、私が2万円プラス光熱費、相手が4万円の負担にする代わりに、私が家事の全てをするということになった。今考えると、週6で働いて家事を全部やる側と、親に家賃出してもらって家事しない側に分かれるのはおかしかった。でもその時の私は、相手が好きだったのと、多く出してもらって申し訳ないという意識があって、家事を必死に頑張った。
一汁三菜をほぼ毎日続けた。私は内臓の持病で肉より魚の方が摂取すべき、そうでないと体調を崩す身体だったけど、相手が魚は食べないと頑なに言うので全部肉料理だった。
自分が食べられない唐揚げをしこたま揚げて(あの頃はまだ油が今みたいに高くなかった)、小松菜のおひたしとにんじんしりしりと、玉ねぎとじゃがいものお味噌汁に野菜ジュースを添えて彼に食べさせ、にこにこ笑いながら自分は唐揚げを食べずに晩ごはんを済ませたこともあった、みたいな感じ。
ごはんを作るのは苦ではなかった。大変だったけど、好きな人が食べるものだから、できるだけいいものをと思って作っていた。
書きながら思い出したけど、私が一汁三菜を始めたのは、付き合いたての頃元彼に酢豚を出したら「一品だけなの?」と言われて「えっ」となったからだった。彼のお母様は調理師の資格を持っていて、毎回何品もごはんが並んだらしい。
私はというと、共働きの家庭に育って、晩ごはんは白米に焼きホッケとお味噌汁、みたいなのが当たり前だった。だから「一品だけなの?」と言われてから、ネットで調べた一汁三菜が普通の家庭のスタンダードなんだと思って、毎日やった。今考えると、一人暮らし経験の無い人間が、一汁三菜をある程度節約しながら実現するのは相当大変なことだったと思う。朝夕の食費は2人で1ヶ月2万円くらいだったと記憶している。休みの日には安さが売りの大型スーパーに1人で行き、冷蔵庫と冷凍庫に入るだけ食材を買って、一汁三菜に足りない食材があれば、仕事帰りに近くのスーパーに寄って買い足して、毎日毎日ごはんを作った。元彼がバイトで夕飯を食べない時は、持病のために処方されているまずい成分栄養剤を飲んで晩ごはんとした。まずい。まずいのに600ml飲まないと1食分にあたらない。黙って飲むしかない。言及し忘れていたけど、私は持病の関係で1日3食のうち2食を成分栄養剤で、残りの1食を固形物で食べているから、朝ごはんは食べていない。元彼のために朝ごはんを作ってから仕事に行っていた。
元彼はそれに満足していたようで、私が別れを切り出す直前には、親御さんに「結婚を考えて交際している人がいる」と話していたらしい。それを伝えられても私の心は動かなかった。ごめんねとは思ったから、少し動いたのかもしれない。
元彼はたまに洗濯をした。それで家事を「フォローしてやってる」と思っていたのが発言から感じられた。「靴下無くなりそうだったから洗濯しといたよ」「ありがとう」「ちゃんと回せよ」「ごめん」みたいなやりとりをたまにした。私は「迷惑をかけてごめん」と思っていた。
この生活を3年続けたわけだけど、私は家事のスキルがみるみる上がり、元彼はSPFゲームをする時間がみるみる増えた。友達とボイチャを繋げて毎晩やっていた。「お前の声入るから黙って」と言われて、掃除機をかけていいか声をかけると舌打ちされた。1日30分はbot撃ちをして、その後実戦で練習しないと上手くならないらしい。携帯を見ながら夕飯を食べて、10分もしないでゲームに戻っていく。「ごちそうさま」とだけは言われた。ゲームをする元彼の隣の部屋で、黙って洗い物をする。
最近知人に「自分が食べられないごはん作るのが普通の生活をしている」と言ったら「自分が食べられないもの作るのってしんどくない?」って言われて、優しい人だなあと思った。人間性とか想像力って本当に個人差あるんだね。
生々しい話になるけれど、性行為は週5以上で求められた。ほぼ毎回応えた。断るという選択肢を知らなかった。あれって気が乗らなかったら断ってもいいんだ。知らなかったんだよな当時。当たり前のことだと思ってたから。夏休みとかになると、1週間で10回とか、普通に求められた。細かいことを書くのは今回は避けるけど、とりあえずキスしてローション塗ってブチこむセックスを週5でするなよ。オナホか。オナホじゃん。私も悪かった。初めての相手がこの人だったから、これが普通なんだと思ってた。普通の恋人は前戯とか、なんと後戯とかピロートークとかあるらしい。セックスの後元彼はよくアイコスを吸っていた。そういえば胸は揉まれた。平均より大きいらしいから満足感あったのかもしれんね。
別れる前、というか同居しているけどもう別れた状態だった時に、避妊具無しでセックスされた。「子どもができたら別れなくて済む」と思ったらしい。友達に電話してこのことを話して「いや〜私も傷つけちゃったからな」と笑ったら「それは絶対許されないことだよ。あなたは何も悪くない。絶対に相手が悪い」と言われた。びっくりした。その後しばらくして、あ、あれってレイプだったんだ、と気付いた。ちゃんとアフターピルの知識があってよかった。レイプされた翌日に職場の近くの婦人科で、丁寧だけど儀礼的に、アフターピルをもらっていた。
なんか、一度中出しした精子の遺伝子って一生膣内に残るみたいな情報をどこかで見かけて、私がこれから大好きな人と子どもを授かろうとする時に、別の遺伝子入るのめちゃくちゃ嫌だな、と思う。友達は「流石に嘘だろ」って言ってたけど、私は怖い。生まれてきた子どもが元彼に少しでも似てたら、嫌な気持ちになると思う。子どものことちゃんと愛せるか分からない。怖い。
後日警察にも行ったんだけど、やっぱり後日なので証拠も無いし、立件は無理ですねと温度無く言われた。警察の人は悪くないし仕方ないけど、その頃ようやくレイプされたという実感が湧いてきた頃だったので、悲しくて泣いた。頑張って元彼の発言を隠し録りして持っていってみたりしたけど、だめだった。
きちんと別れて元彼が家を出ていくという時、その人は泣きながら私のことをきつく抱きしめた。私は「え、なんであんなに大切にしてなかった女のこと、こんなに好きでしたみたいな態度取れるの」と思っていた。泣くほど好きならもっと大事にしなよ。初めてハグされた時のことを思い出した。その時もこのくらいきつく抱きしめられたね。痛かった。
この前私がレイプされたことを知っている男友達に「男はみんなラブドールママが欲しいんだから」と言われた。おい友達。その発言もどうなんだ。笑って聞いてたけど。友達は悪くないけど。…いや悪いか? 悪いかも? ラブドールママね。たしかに言い得て妙かも。飯炊きオナホって言葉より、ママだったもんな完全に。全部肯定してくれて家事やってくれて、風邪引いたら面倒みてくれる存在。私の好きなところどこ? って訊いたら「なんだかんだ優しいところ」って言われたことがある。そっか、私って優しかったんだ。
正直嫌だったセックスの話とか無限にできる。でもさすがに今日は寝る。
書けてよかった。なかなか人には話せないから。
2024.3.14