ウンベルト・エーコ『プラハの墓地』を読んだ。
https://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488010515
やたらと時間がかかって図書館の貸し出し延長してしまった。1ヶ月借りて2回通読。
ーーーーーあらすじ引用ーーーーー
>ユダヤ人嫌いの祖父に育てられたシモーネ・シモニーニ。偽書作りの名手であるシモニーニがいかにしてユダヤ迫害のもととなった偽書『シオン賢者の議定書』を生み出し、どのように世界にそれが広まり憎しみの渦を作り上げたか?
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主人公以外の登場人物は実在した人物であり、描かれている事件も実際の出来事であるらしい。夢主人公の大河ドラマみたいな話?
わたしは世界史がさっぱりわからないので、1回目はワケワカラン状態でどうにか読み通し、2回目は出てくるキーワードを検索しながら読んだ。ガリバルディも知らんしパリ・コミューンも知らないよ。世界史に詳しい人には常識だろみたいな項目もいちいち調べないとわからなくて、も~本当に教養がなくていやになっちゃう。
でも「知らないものを知らないなりに一旦置いといて物語の筋を追う能力」はそこそこあるなと思った。混乱する二つの人格、紐解かれていく記憶、増える死体、そして時系列は現在へ……という物語の組み立てが面白かった。カタカナ人名が多すぎて「こいつ誰だっけ???」のタイミングはかなりあったんだけど。
この物語の舞台は19世紀後半なのに、書いてあることは現代とまるっきり一緒だった。
・人は自分が既に知っている筋書きを信じる
=陰謀論には普遍的な形式がある。
・人は憎しみをぶつける相手を必要としている。
・その相手は身近な存在かつ自分と違うカテゴリに所属している者が良い。
主人公・シモニーニはユダヤ人を憎み、また作中ではフリーメイソンやイエズス会が陰謀論の標的になっていた。これ、インターネットで毎日起きている異性叩き/属性叩き/人種差別と同じだ。19世紀にも21世紀にも、同じ形式で誰かが憎まれている。
シモニーニが作り出すユダヤ人の陰謀は、正直なところ荒唐無稽で、いやそれはさすがに草みたいな描写をされている。でもその偽物の陰謀がほんとうに全世界で信じられて、あのナチス・ドイツにお墨付きを与えていたのは間違いのない史実だ。「荒唐無稽でそれはさすがに草な話が、まことしやかに広がって、みんななんとなく信じている」みたいな話、今でもそこらじゅうにある気もする。
そしてなにがびっくりしたって、シモニーニが作り出した(とされているが実際には作者不詳の)『シオン賢者の議定書』、Amazonのレビューがすごい。「偽書とされていますが、世界は実際にこの通りになっています」……ホロコーストから80年、各国で偽書と認定されている本を、まだまだ信じている人間が日本にもいる……。
とはいえわたしだって、納得のいく物語として史実を与えられたから腹落ちしているだけで、別のものを摂取していたら世界の見え方もまた違ったかもしれないね。人は自分の知っている筋書きを信じ、見たいものを見、別カテゴリの人間を見下す。あるよね~。己もまたそのひとりであるなと思いました。
おわり