拝啓じいちゃんばあちゃん。
お元気ですか。 この先どんどんと思い出すことも減ってしまうかもしれないので、お手紙書きます。
あなたたちが亡くなり、4年がたちます。 わたしは、あなたたちが亡くなった正確な日付を覚えていません。 なんて冷たい孫でしょうね。
あの時、私は両親が苦しむのが嫌で、あなた達を憎んでいました。 縁などもう切れたとさえ思っていました。 ですが、最近、ふと思い出すのです。あなたたちとの幸せな日々を。
あの頃は確かに、私は幸せでした。
初めて卵焼きを1人で作らせてくれたこと。 料理酒がキツかったであろうそれを美味しい美味しいと食べてくれたこと
ゴールデンレトリバーのハナちゃんを連れた散歩道、 一緒にボール隠しをしていたあの市役所
夜更かししては夢を聞いてくれたあの笑顔 朝起きれず行けなかった早い時間の散歩
小学校の裏にあった駄菓子屋さんに連れて行ってとねだっては 一緒に練りあめを食べて帰ったこと、小学校の校庭に入り込んで遊んだあのタイヤ
この子は漫画家になるだろうからといって沢山買ってくれた方眼ノート、鉛筆に消しゴム
緑色の入浴剤
化粧品の匂い
タバコを吸うから先に家に入れといったじいちゃんの声
電話越し聞こえるばあちゃんの声
作ってくれた可愛い服たち
モーニングに連れて行ってくれたタバコ臭い喫茶店、人工的な、真っ赤なクリームソーダの味
私は全て忘れて、両親の幸せを取りました。
じいちゃん、あなたが借金を作り続け、父を苦しめたこと、私は許せなかった。 家族の根幹が揺らいでしまう気がしたから。 これは我が身愛おしさのせいもあるのでしょう。
「死ぬなり勝手にすればいい」 あなたにひどいことを言いました。後悔はしてないけれど。
ばあちゃん、あなたは幸せだったのでしょうか。 どこにも行けず、誰とも会えず、じいちゃんとだけ一緒にいた人生は。 6年ぶりに会った私に、男の子みたいで誰かわからなかったといったこと、今でも少し根に持っています。
時々、あなたたちがくれた物を思い出しては、 私を形作ってくれたのはあなたたちだと思うことがあります。
両親には言いません。きっと彼らは優しいから、自分たちのせいで縁を切らせてしまったと傷ついてしまうでしょう。
だから、ここでいいます。 ありがとう、ごめんなさい。愛してくれてありがとう。
春になってきましたね、天国でも、お体に気をつけて。