いくつかの本と漫画の感想を書こうと思ってたけど、推し作家に熱が入り長引いたため、ネタバレ有りの単独感想です。
『パラソルでパラシュート』一穂ミチ
以前、『オンリー・トーク』の感想を書いたときに言及した小説。過去単行本版を買ったDMMブックスのアプリがあまりにも小説を読むのに向いておらず、そこから再読する気になれなかったので、普段買っているBookLiveで文庫版を買って読んだ。
あらすじ。
主人公の美雨は大手企業の受付嬢。このご時世に顔採用だが、雇用形態は契約社員。しかも「30歳」を迎えたら、ほぼ全員が退職の運命にある。寿退社か、キャリアアップか。どちらも選ばないまま、タイムリミットまであと1年となる29歳の誕生日を迎えてしまう。そんな誕生日の夜、美雨は後輩から譲られたチケットで行ったコンサートをきっかけに、不思議な男・亨と出会う。亨は『安全ピン』というコンビの(売れてない)お笑い芸人だった。劇場で彼らのコントを見た美雨は、なぜか思わず泣いてしまう。美雨、亨、そして亨の相方・弓彦も含めた3人の不思議な交流は、「推しとファン」とも「友情」とも「恋愛」とも言い表せられない関係性を築いていく。亨とルームシェアをしている芸人たちや、自分の職場仲間との関わりの中、美雨が選ぶ未来は……。上昇志向のないお笑い芸人と、崖っぷち受付嬢の1年間。
と、いった感じの話。
再読しても、やっぱ後輩の千冬ちゃんと弓彦がマジでマジでかわいい人間すぎる。
最初に読んだのが4年前のちょうど今ごろで、当時は「大阪の劇場で主に活動するお笑い芸人の日常」というのが全くわからず、読んだまま単純に「そうなのかー」くらいに感じていた。いま読むと、そりゃもう解像度が爆上がりしている。「芸歴10年以下、関西限定の賞レース」という表現を読んで「ytvのことだ!!」とかわかるわけで。「放送作家」が「撮影のために持ってる家」とか言われても「???」だったのも、かなりすんなり入ってきたし。あと土地的にわたしが関西に馴染んできたのもあるかも。地理も以前よりわかる。
一穂ミチ先生はいまやすっかり直木賞作家だけど、やっぱこういう…ロマンスじゃなくていいから男と男の関係性の話を今後も書いてほしいよ~~😂
とにかく弓彦がかわいい男なんすわ。『安全ピン』は主にコントとしゃべくり漫才をするコンビで、コントの場合はほとんど亨が「夏子」という女性に扮する。この夏子が、亨の女装のはずなのにやたら可憐で清楚でかわいらしい。容赦なくネタバレするけど弓彦はこの「夏子」に恋してるという設定が、とにかく絶妙すぎる。初めて読んだときは「ん?弓彦は亨が好きなのか?男→男←女の三角関係の話なのか?」と思いながら読み進めていたので、ここで「そういうことーー?!」と声が出るくらい興奮した。
「夏子」は、亨であって亨ではない、板の上にしか現れない存在。そんな相手に惹かれてしまう切なさ・ままならなさに「こんな設定考えられるの天才すぎるよー!!」と興奮して泣いた。これが明かされるまでもまたフリが利いていて、『「好き」といっても一概に同じ「好き」はない。父親と母親でも「好き」の種類が違うでしょ。牛の部位で言ったら母親は肩ロース、父親は藁。』というたとえ話(※要約)を亨がラジオでしていて、弓彦にとっての「恋愛感情」を牛の部位で言うと、「骨」…。っていうエピソードがあったから余計に、弓彦かわいすぎるだろ!!!になっていた。とにかく一穂ミチ先生は口が悪いのに繊細でかわいげがある男を書かせると天下一品。なのでわたしにとっては亨より弓彦がかわいく見えて仕方なかった。
一穂ミチ先生の一般文芸は『きょうの日はさようなら』『スモールワールズ』『砂嵐に星屑』『うたかたモザイク』『光のとこにいてね』も読んできた。直木賞を受賞した『ツミデミック』やその他新しいものはまだ読んでいない。BLじゃないから…BLじゃなくてもおもしろいのはわかってるけど…BLはある程度「お約束の展開」があるものだけど、一般文芸はどうなるかわからず感情コストが高いので、どんどん読めないんだよなぁ。そう考えると、ミステリとか「ある程度やることが決まってる」話のほうが読むときの感情コストが低いのかな?
ちょっと話がズレた。それらも含めて、もともとBLで知った好きな作家さんなので、一般文芸を読んでもどうしてもBLの文脈で解釈してしまう。つまり弓彦は受けの男だったな…ということなんですが。
千冬ちゃんのようにさっぱりしてて精神性が美しい女子の書き方も本当に魅力的。BLのときもサブキャラとしてそういう女がかかわってくる話は多々あって、みんな好きだから…千冬ちゃんを好きにならないわけがない。口が悪いのに素直でかわいい女を書くのも上手い。
再読したら自分が結構大事なことを忘れていたのにもびっくりした。特に「ぐるぐるさん」の存在とか。そういえばこのシェアハウス、心理的瑕疵物件だったな。弓彦関連でもパーカーの紐のこととか。美雨が給湯器の声として協力したこととか。夏子のモデルになった継母がなんで会いに来たんだったかとかを。
それにしても一貫して「芸人コンビ」の距離感にとてつもない尊重を感じる。これを初めて読んだ時は一穂ミチ先生が「芸人コンビは関係が濃すぎてBLにならない」と考えているのを知らなかったから「弓彦は亨が好きなのか?」と安易に考えたけど、改めて読むと本当に「相方」は「相方」としか言えない、唯一無二の特別な関係であることがこれでもかと書かれている。
弓彦は「夏子」と亨のネタにも惚れて亨に「夏子」をやめてほしくないと願ってて、亨も弓彦が「おもしろい」と言ってくれなければ続ける意味がない、自分を見つけてくれた相手と思っていて、でもそれをお互いに言うことはないし、言わなくていいことなんだろうと思う。それは間に立つ美雨だから聞けたことで、読者だから知れたことで、現実の芸人さんだったとしても決して聞けないことだろうな…と感じる。
ラジオを聞いたりYouTubeを見てるような現実のコンビだともともと友達で、相方というラベルが新たに加わったコンビも多いんだけど(メンバーとかフースーヤとか令和ロマンも)、エバースやバッテリィズ、カベポスターも本当に「相方」としか言えないヘンテコな関係性が垣間見えるので、おもしろ…と感じている。
わたしの大まかな感想だととにかく「弓彦と千冬ちゃんがかわいい」になるんだけど、美雨の職場の先輩、浅田さんもいい。いいというか、うらやましい!!わたしも早くこれになりたい!!浅田さんは受付嬢が正社員だった時代の生き残りで、30を超えても会社に居座り続けている…というように周りからネガティブに囁かれがちな人だけど、穏やかで美雨や千冬ちゃんをさりげなくフォローしてくれるような、不思議な雰囲気の人。が、実はめちゃくちゃオタクで同人誌即売会で出会った友達2人とルームシェアしてるっていうプロフィールが最後に開示され「うらやましすぎる!!」になる。うらやましすぎるよ〜〜〜!!
「恋愛・結婚orバリバリ仕事」をどちらも選びたくない女性と、「テレビに出て売れたい・有名になって稼ぎたい」じゃなくただ自分たちがおもしろいことをし続けたい芸人の閉塞感、崖っぷち感をリンクさせて書いているのがおもしろい。ここってリンクするのか。美雨が亨へ惹かれている描写はあるけど、亨も弓彦も一貫して美雨に対して欲をチラつかせないところもいい。亨が3人の関係性を問われたときに「ひとりとひとりとひとり」って答えてたの、めちゃくちゃよかった。
中盤、芸人を辞めることになったネバーくんが「夢破れた」という話をするシーンもいい。大人が10年必死にやってきたことを辞めるって、切ない。茶化して「こうなるはずだったのにな」と話してるけど、どんなに切実にやってきたのか伝わってきて、泣ける。以前も泣いたシーンだったのでここは覚えていた。めっちゃ余談だけどネバーくんは「金髪のマッシュルームヘアー」なので、今そう言われると真空ジェシカのガクさんの顔が思い浮かんでしまう。ネバーくんは顔ファンの多い男前らしいのだが…。
そしてわたしは一穂ミチ先生の書く話で表現される「切実さ」が好きだなと、再確認した。人が、誰か・何かを、報われるわけではないものを求めて、求めずにはいられない切実さ。そのヒリヒリするほどの温度が、言葉に詰まっている。
そうやって中盤以降の「前回も泣いたな」ってところは改めて泣けた。千冬ちゃんがマイホームを建てたら雨ちゃん先輩の部屋も作るから、と真剣に言ってくれるところなんて本当にいじらしくてかわいくて大好き。『安全ピン』というコンビの、お互いへの無垢すぎて苦しいくらいの誠意も。
こういう設定や登場人物だと主人公が「自分もお笑いをやろう!」と「目指すもの」を定めて奮闘…みたいなストーリーになりがちだと思うけど、美雨にはずっと「目指すもの」はない。強いて言えば「笑って生きてやる」ということ。恋愛にも結婚にも興味はないし、バリバリ仕事をしてキャリアアップしたい野心もない。だけど、笑って生きる。ただそれだけ。周りから勝手に提示される選択肢じゃなくて、自分が自分らしく、笑って生きていける選択肢を掴み取ること。何も強要しない終わらせ方が好き。わたしも理想も野心もない人間だから、めちゃくちゃ優しい話だなと思う。これは初めて読んだときから。
ハラハラしてドキドキして、笑って泣いて苦しくなって、最後も笑って「あーおもしろかった!」と言えるお話。わたしの人生も「あーおもしろかった!」で終わりたいものですね。
めっちゃ長くなってしまった!!『パラソルでパラシュート』を読み終えたあと、ぱらぱらと作者のデビュー作である『雪よ林檎の香のごとく』も読み返してみた。10年ほど前に初めてこの本を読んだときからずっと心に残ってるセリフがあって、それを確認したくて。
「やっぱ欲望って、切実じゃないと駄目なんだよな。きゅーっと、心が絞られるみたいに欲しくなるのがいい」
という桂先生の言葉を、一穂ミチ先生の本で「切実さ」を感じるたびに思い出す。激しい炎であり、同時に凍てつく氷のような切実さ。そこが、好きだ…というのを今回やっと言葉にできたので、ちょっと感想とはズレるけど記録しておく。
👇追記。4年前の簡単な感想。
ついでにこれだけ言わせてくれ……にごリリ(2.5次元の誘惑)、完結おめでとう!!!😭😭😭ありがとうありがとう……「誰かが何かを愛する気持ち」が輝く作品だった…。そして何より、美花莉!!!よかったね!!!!😭😭😭😭
これでわたしが近年推している「10年来主人公を想っている幼なじみ」は竹早静弥も橘美花莉も無事主人公と生きていく未来が確定しました。静弥くんは確定してない?湊アンド静弥のデュエソン『Up Stairs』を聞いてください。""寄り添っては並んだまま""超えていくその階段を…なので確定してます。令和の時代で歌うジャンルじゃないのにキャラソンが出たツルネ、ありがとう。
にごリリ完結の話はまた最終巻が出たらしようかな🎶👼💕