『オッドタクシー』感想

tnsugui
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随分前からフォロワーに勧められていたアニメ作品。ずるずると先延ばしにしていたが、アマプラに入会した機会に見始めたら凄い作品だったので感想を残す。

作品ページ:https://t.co/vJcKrmT261

タクシードライバーの小戸川が、様々な乗客との会話を通して事件や複雑な人間関係に巻き込まれて行くミステリー群像劇。

推理ものとしても端々に散りばめられた伏線と回収が鮮やかで気持ちが良く、キャラクターものとしても個性豊かで魅力的な作品だった。小戸川と乗客のドライなやり取りと、SNS社会に生きる現代人に共感しやすい世界観、誰も彼も結構独善的で何ともリアルな人間模様が描かれている。

取り上げて書きたいシーンは沢山あるが、個人的に印象に残っている回が3つ。

まずは4話「田中革命」。田中というとあるゲーム会社の男がただ自分の半生について独白するだけの回なのだが、これが凄かった。ここで「あっ普通のアニメじゃないなこれ」と実感させられた。

田中は小戸川のタクシーに轢かれそうになった事をきっかけに小戸川への殺意を抱き、偶然手に入れた拳銃で都内各地に出没する殺人鬼である。

生まれ育ちが特殊な訳ではない、真面目で年相応な思考を持った普通の少年だった田中は成長して普通の会社員をしていた。それがどういう経緯で小戸川に殺意を抱くようになったのか、ただ轢かれかけただけではない、小学生時代と現在のとある出来事の関連性から徐々に歪み始めた様が生々しく、且つ淡々と語られる。

それまでの話で田中という男は全くと言って良いほど出て来なかったため、脈絡もなく始まった語りに「誰やねん田中」と思っていたのに段々「田中は俺だったかもしれん」に変わるのが怖かった。

他には11話「あの日に戻れたら」。二階堂ルイの独白形式で、行方不明の三矢ユキを始めとしたミステリーキッスの現状に至るまでの経緯が明かされる。銀行強盗の計画が進む回でもあるため、この辺りから一気に物語の核心に近付く。

ストーリー序盤の今井の「三矢のダンスが調子悪そう」という台詞が、替え玉である和田垣のダンスが本物に比べて劣っているからだと分かった時には思わず声が出た。死体遺棄を手伝った二階堂の段々恐怖に追い詰められていく様も良かった。

マネージャーの山本がミステリーキッスへ並々ならぬ執着を抱えているのは、三矢の死体遺棄から後に引けなくなったからだと思っていたが、2019袋とじの前日譚によると事務所を借りる際「こんなところで躓いているわけにはいかないんだ……」「ここから始めるんだ……邪魔されてたまるか……」と言っているので死体どうこう以前の問題らしい。それもどうかと思う。

あとはやはり13話「どちらまで?」。小戸川の異常な記憶力のみならず、登場人物が動物であることに意味があると気付いた時の快感は凄かった。別に意味など無くてもそういう世界観だと言われればそう受け入れただろうが、今まで小戸川の視界を通して作品を見てきたのだと実感させられる構成が素晴らしかった。

剛力の問診シーンで「俺は何に見える?」「ゴリラ」「……まあ、合ってる」という会話があったが、実際人の姿でもゴリラのような厳つい見た目だから間違いではない。柿花やドブのシルエットを見て即答できる小戸川に周りは驚いても、視聴者からすれば特徴的な見た目ですぐに分かってしまう。

そういう、初見視聴者には気取らせない話運びをしつつ、再度1話から見直すと意味が分かる台詞やキャラの反応が作り込まれているのが凄まじい。

タクシーが東京湾に落ちるシーンで、それを見ていた様々なキャラクター達が落としたり捨てたりしてきた様々な物が重なる描写もドラマチックだった。最後に和田垣が「のし上がるためなら何でもするっちゃ!」と笑って母親に電話して小戸川のタクシーに乗った時は血の気が引いた。

複数人の視点で同時に話が進んで行くので、正直全然語り尽くせない。好きなシーンと言えば1話最後の大門兄とドブが封筒とドラレコのSDカードを交換するシーンとか、こんなに人として嫌な初登場なかなか無えだろと言いたくなるヤノとか、急に小戸川の首を絞め始める山本とか、誰よりもとばっちり受けてる市村とか、死体を解体する山本と関口の表情の違いとか、私服でハット被ってジャケット着て本を読んで厳つい体格なのに知性が滲み出ている剛力とか、普通に馬場の事めちゃくちゃ好きな二階堂とか、鬱陶しい芸人っぽさが生々しすぎる柴垣とか、ジュラルミンケースを開ける時の白々しい大門兄とか、「俺が兄ちゃんを捕まえてやるよ 悪なんだから」と涙ながらに正義を貫く大門弟とか、人間として見た時の顔がマブい白川さんとか、2回も撃たれるドブさんとか「オッドタクシー」を気に入っているドブさんとか樺沢の諭し方が嘘みたいに上手いドブさんとか本当は弱いところがあるらしいドブさんとかそれはもう山のようにあるんだけど、何よりもこの朴訥とした雰囲気の小戸川をこんなに好きになるとは思っていなかった。キャラクターの描き方が本当に上手いアニメだった。

結構アニメを見るのに躊躇するタイプで、圧倒的に漫画の方がテンポも早く分からなくなったら読み返せるから手を出し辛かったんだけど、これはアニメやドラマなどの映像で見る方がリアリティがあって良かったかもしれない。でも漫画も非常に面白そうだし、絵も好みなので近い内に買おうと思う。

アマプラに入ったことでちょっとした時間にアニメを見るハードルが下がったので、これからも色々見たいな〜。