手先が器用ではないが、ものを作ることが好きだ。
手先が器用ではないのにものを作ることが好きだとどうなるかというと、すべての制作物が一回きりしかできない。
なぜならすべての制作物は一度失敗を経たのち、なんとかあれこれして「できた!」となるからだ。
本当のアイデンティティ、代替不可能性、生体認証ともいえるかもしれない。なにしろ本人にもふたたび作ることができない。
レシピ化することが不可能である。どうやってできたかまったく見当もつかないのだ。
料理も、裁縫も、編み物も、作文も、デジタル工作も、アナログ工作も好きだ。
しかしどれも体系的に習ったわけではないので、勘でやっている。
そして一度は失敗する。
いつだったか、ネットで"まず「信じる」から始まるレシピ"というのが話題になったことがあると記憶している。
これでほんとうに合ってるのか?美味しいものができるのか?と一瞬考えてしまうレシピのことで、最終的には無論美味しいものができる。
ひるがえって私の場合、すべての工程前に「信じる」が必要になる。ことによっては「祈り」が必要となるときもある。
この操作によって何が起き、何ができあがるのか?頼む!
一瞬ならまだしも、さすがにすべての工程で祈っているとだんだん不穏な様相を呈してくる。
私は何を作っているのか?誰も知らない。
この操作ができれば次につながることを願うしかない。
先日、「立方体のピンクッション」を作ろうとしたところ、なんとも形容できないものを生み出してしまった。

どうして?
しかしまあ、もう引き返せないので、羽と顔と耳をつけてみた。


「はねのあるうさぎ(ないしは犬)ピンクッション」の完成である。
OK、言いたいことはたくさんあると思う。
まずは、「どうして羽をつけてしまったのか?」というところだ。
あと「それは縦の耳なのか?横の耳なのか?」という点についても議論すべきだ。
ことによると「刺繍で縁取ることを諦め、マーカーで羽を縁取っている」点についてお気づきの方もいるかもしれない。
……いや、ちがう。
そもそもなぜ立方体にならなかったのか?
私は祈ったのである。
どう考えてもマチの作り方をまちがっており、この工程によってとうてい立方体になるようには思えないが、もしかしたらいけるのかもしんない。ためしに頼む!と作ってみたのである。
やっぱりだめだった。
私の工作にはギャンブル性がある。
時代が時代なら闘牛とならぶアクティビティになり得ただろう。
石川大樹、ギャル電、藤原麻里菜著「雑に作る」(オーム社、2023)という本がある。
この本がたいへん好きだ。読むと体調がよくなるので、折に触れて読んでいる。
この本は電子工作の入門キット/入門書を1冊終わらせた人向けの、「2冊目の本」として作られたそうだ。
まず「はじめに」に書かれた"雑の極意"なるものがいい。
一、気軽に作り始めること
一、完成度は低くてもまずは完成させること
一、見た目にこだわらないこと
一、1つの傑作より10の駄作を作ること
一、広く深く学ぶより、いま必要なことを学ぶこと
一、1つの技術で10作品作ること
一、「雑」をよいことととらえること
石川大樹、ギャル電、藤原麻里菜著「雑に作る 電子工作で好きなものを作る近道集」オーム社、2023、はじめに/石川大樹、p.3
どの極意もすごく嬉しい。
「これでいいんだ」と嬉しくなる極意はこれ以外に読んだことがない。
この本は大部分がちゃんとした電子工作の教科書(便利な部品の説明とか、工作のアイディアとか)なのだが、「雑に作る」が目標なので発表へのマインドセットや多作の極意、インスピレーションを得るための方法なども書いてある。
それと初心者に配慮してくれたのか、著者らのキャラクターなのか語り口がかなりフランクでおもしろい。
新しいシーンを作るのはうちらじゃん!最初はなんか「恥ずかしいな」とか「慣れないな」って思っても「うちらがいちばんイケてるし!!」ってマインドがあれば、「いいじゃん」って言ってくれる人もけっこういるよ。電子工作をつけてストリートにガンガン遊びに行こ!!!!
石川大樹、ギャル電、藤原麻里菜著「雑に作る 電子工作で好きなものを作る近道集」(オーム社、2023)、工作物を体に固定する方法/ギャル電、p.229
雑に工作をするのって、なんて楽しいことなんだ。雑というと、ネガティブなイメージがつきものだけれど、雑というのは低姿勢で、そして、自分が好きなものを好き勝手作るということだと思う。雑でもいいから、みんなも一緒に物作りをしよう!
石川大樹、ギャル電、藤原麻里菜著「雑に作る 電子工作で好きなものを作る近道集」(オーム社、2023)、電子工作と私/藤原麻里菜、p.199
とにかく全編こんな調子だ。
この本は本当の「実用書」だと思う。
もちろん電子工作の本だけれど、この本を読むと何かを作ることすべてに関して勇気が出る。
ものを作るのは面白くて楽しい。
うまくできたらハッピーだし、うまくいかずに羽のついたうさぎ(ないしは犬)を作ることになっても針は刺せるし、顔がついててお得だし、まあまあハッピーである。
それにすくなくとも、次に立方体を作るときに同じ間違いはしない(たぶん)。
せっかくだから発表して、たまに褒められるとかなり嬉しい。
しかし、褒められなくても次を作る。
何ができるかわからなくて楽しいから。
この本はそれを思い出させてくれる。
ここまで「雑に作る」という電子工作本を推したので、この文章を書いている私はさぞ電子工作に明るいのだろうと思われたかもしれない。
しかし、告白しておく。
この本の主眼である電子工作の、それも入門キットを、私は、積んでいる。
"俺流・雑の極意"にさらに一つ、
一、電子工作に入門していなくても、電子工作の本を読んでいい
を追加しておきたい。