にしても何故急に怖い話をしてくれなどとサトリは言ったのだろうか。アシンがその疑問を視線に乗せて訴えるとサトリは少し恥ずかしそうに目を逸らしてから机の上に大きな物をごとりと置いた。
「わあ、たいぷらいたーってやつですね」
背後からの声に振り向くとそこにはルルが相変わらずのにこにこ顔で立っていた。手には湯呑みが乗った盆を持っている。ゆっくりとした動きで膝を折って各人の前にお茶を置くと彼も座ってひと息つく。
この男、他の人の為の朝食の準備に早起きして配膳から食器洗いまで全て一人で済ませてしまう。一人にだけ負担が掛かる共同生活はよくないと考えてアシンからルルに当番制にしようと提案したが彼曰く〝何もしてないと腐ってしまいそうだから嫌だ〟そうだ。幸か不幸か料理が好きなのはルルとバグぐらいなようで、バグに関しては得意料理以外はお断りのようだった。
「……全て任せてしまってすまない」
「いいえ、好きで僕はやっているので気にしないでください。それより何度もそう言われる方が申し訳なくなります」
「ああ……その、……ごめん」
「御免も済まないも同じ意味合いではありませぬか?」
別に自分の事なんか話の話題にしなくていいだろう。そう思ってむっとするとアシンはサトリに向き直って卓上に置かれたタイプライターと交互に視線を刺した。その視線に焦ったように目を泳がせるとサトリは細く長い指を運動させるように組みながら口を開いた。
「実を申すと、作家の真似事を致したくてな」