「怖い噺を聞かせてくれませぬか」
そうサトリが言ってきた。アシンはその意味がわからずじっと彼の顔を見る。今までは一つ目の仮面を付けていたので気にしてはいなかったがシオンとは違うすっきりとした美形だ。そういえばこの男、生きている頃は顔の良さで囲われていたのだったか。今までの仕事ぶりからしたら言いたい事は我慢せず言うタイプにも見えるのであまりそういったか弱さを感じ取れない。アシンの思考が最初の怖い話から逸れているのに気付いてサトリは凛々しい眉を歪めた。
今日は土曜日の朝。アシンがバイトとして働いている中華屋の紅龍亭は、ロージーこと政五郎がハナキンとやらを味わいたいからという理由で土曜日は休みになっている。あの頑固な店主が定休日を変えることを許したのは驚きだ。アシンにとっては平日と土日との境目がはっきりするので助かっている。
何故だか他の者も何名かを除いて土曜日の朝は起きてくるのが遅い。
休みの日ぐらいゆっくり寝させろ
そう云う考えはどの時代に生きていたとしても同じなのかもしれない。