「帰りたい」
ずっと願っていた。
生まれ育った町で
朝と昼と夕暮と夜を過ごした。
帰れば、帰るのだから、帰れると思っていたが
ちっとも帰れない。
帰るにはタイムマシンが必要だった。
心配のない洗濯物の匂い
午前中が終わる憂うつの11時
心をぽっかりとさせる14時の日差し
ひんやりしめった外気が鼻を通り抜け
ボールも跳ねる音
よそのお風呂が沸いている
青い光が散乱し残る赤
山の端は黒く
煙草の匂いは外気にまじりあい特別な匂いになる
バイクが大通りを走り去る。
(さようなら、また晴れの日に)
全身を五感にひたすと湧いてくる
孤独な幸福感に帰れなかった。
みんな来た道すがらで点々と手を振っている。