帰れなかった

トム
·
公開:2024/11/13

「帰りたい」

ずっと願っていた。

生まれ育った町で

朝と昼と夕暮と夜を過ごした。

帰れば、帰るのだから、帰れると思っていたが

ちっとも帰れない。

帰るにはタイムマシンが必要だった。

心配のない洗濯物の匂い

午前中が終わる憂うつの11時

心をぽっかりとさせる14時の日差し

ひんやりしめった外気が鼻を通り抜け

ボールも跳ねる音

よそのお風呂が沸いている

青い光が散乱し残る赤

山の端は黒く

煙草の匂いは外気にまじりあい特別な匂いになる

バイクが大通りを走り去る。

(さようなら、また晴れの日に)

全身を五感にひたすと湧いてくる

孤独な幸福感に帰れなかった。

みんな来た道すがらで点々と手を振っている。

@tomcat
トムです。自分のあいまいで見通しの悪いこころのために文章を書きます。