数分後に死ぬかもしれないと毎秒繰り返し思わないから私たちはいま生活していられるのだけど、それはそうでもないと生きにくいから思わないのであろう。であるから普段はそう思わない。
そう思わないでいられる部屋に入っているのだとイメージすることがある。そこにあるものはすべて輪郭が淡く、どう見たって淡いのだからそれ以上考える必要がない。
その部屋には扉があるのだが、普段は見えない。その扉があることに気がついたとき、ある意味で正気になる。たとえば「数分後に死なない可能性などない」と。扉がガタガタ動く。勝手に開く時もある、ああまた見つけてしまったがアレは開けないほうが生活しやすいと思い存在を認識することをやめることもある。
その扉が存在しない人間は居ない。それが存在することに気がついたかそうでないかの違いだけだ。