今夜の母は床に就いたあとも寂しがり、側を離れると自分を呼んだ。まだ台所の後片付けや洗濯が残っている。夜のルーチンが進められないなあと思いつつも、介護ベッドの側に座り、手を握る。母も固く握り返してきて、離そうとしない。もう片方の手で身体をさすってやる。
身体をさするリズムに合わせて、ふと、歌が口をついて出た。
夕焼、小焼の、
あかとんぼ、
負われて見たのは、
いつの日か。
初めてのことだ。自分でも少し驚きながら、歌詞を忘れたところはハミングで旋律を繋ぐ。
十五で、姐やは、
嫁にゆき、
お里の、たよりも、
絶えはてた。
人生には、親に子守唄を歌う夜もあるのだなあと、そんなことを考える。やがて母は寝息を立て始めた。
【音の情景】「赤とんぼ」による瞑想曲(G.ボヴェ) | パルナソスホール
演奏:長田真実(オルガン)