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親に子守唄を歌う夜

夢前綺譚
·
公開:2026/9/20

今夜の母は床に就いたあとも寂しがり、側を離れると自分を呼んだ。まだ台所の後片付けや洗濯が残っている。夜のルーチンが進められないなあと思いつつも、介護ベッドの側に座り、手を握る。母も固く握り返してきて、離そうとしない。もう片方の手で身体をさすってやる。

身体をさするリズムに合わせて、ふと、歌が口をついて出た。

夕焼、小焼の、

あかとんぼ、

負われて見たのは、

いつの日か。

初めてのことだ。自分でも少し驚きながら、歌詞を忘れたところはハミングで旋律を繋ぐ。

十五で、姐やは、

嫁にゆき、

お里の、たよりも、

絶えはてた。

人生には、親に子守唄を歌う夜もあるのだなあと、そんなことを考える。やがて母は寝息を立て始めた。

【音の情景】「赤とんぼ」による瞑想曲(G.ボヴェ) | パルナソスホール

演奏:長田真実(オルガン)