
しかし、ときとしてわれわれは、生きているのに死んでいると、感じることがある。とおいとおい先。何もない世界。その只中に、ほおりこまれた気持ちになることがある。そんなとき、死は、じっとりとこちらを見ているのだ。
生きているのに、死んでいる。その事実に、悲しくなるからこそ、人は今という一日を懸命に生きるのである。そうすることでしか、死の存在を頭のなかからかき消すことは、できないのだ。
しかし、そんな懸命に生きている最中であったとしても、死はじっとりとこちらを見ているのだ。たえまなく、われわれがそのことを忘れているときですら、死はこちらをじっとりと見ているのだ。
けっして目を合わせてはいけないそれに向かって、われわれはまっすぐに進んでいる。けっして目は合わせてはいけない。それと目が合ったなら、そのときには、もうおそい。死は確実に、自分と共にあるだけだ。
その先には、何もない。そこには、けっして行ってはならない。われわれは、しかし、確実にそこに向かって進んでいるのだ。そこからけっして、目をそらしてはいけないのだ。