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※この記事は書き手の自我が多めです。
2024年1月2日。オタク、ミュージカル歌枠の予告にうろたえ、布団の中でバキバキに開眼していた。
明日「地獄の炎」がセトリに入っていたらどうしよう。
もう察しちゃった人は鼻で笑ってほしい。
急自語乙だが、このオタク、長らく劇団四季ミュージカル『ノートルダムの鐘』に狂っている。年末に金ローでもやっていたアニメ版『鐘』を、ヴィクトル=ユゴーの原典もひっぱっていいとこ取りで再解釈し、ヘヴィな群像劇にまとめた傑作。キャストごとに誰に見せるでもない感想文をしたためている患いっぷりで自分でも呆れるほどである。
そして、このにわかな生命の危機には、前兆があった。23年末の「自撮」配信でちかごろ俄に推している佐伯イッテツが「聖なるマリア〜」と口ずさんだのである。ああ、『鐘』だ、と思った。しかもアニメ版は「ああマリア様〜」なので、悲しいかな長文したためオタクはこのヤニカスがミュージカル版を歌っていることに気づいてしまった。フルで聴きたい。この声と持ち前の演技力であの怒りと懺悔とを聴きたい。聴きたい!……そこへミュージカル歌枠の予告である。震えるしかなかった。
いざ配信が始まっても、みんなの歌をとても楽しんでいるのにどこか浮き足立ち、何かにつけて、すごいセトリ?ヘルファイア?重たい曲?ヘルファイア?みんな大好き?ヘルファイア?え?違う?そんな調子だった。
そして、ラブソングという言葉と共に、KAATで、浜松町で、CDで、サブスクで、何度も聴いたあの鐘の音が流れ始めた。
そしてオタクは炎に巻かれた。夢にまで見た佐伯イッテツの地獄の炎である。
われわれオタクは喜びでよく感情死するけれども、リアルに手が震えるのは初めてだった。歌が上手い。声がいい。感情が乗ってる。なんかリトくんがすごい笑顔で見てる。おうとうが目を細め笑い合っている。てぇてぇ。
そして、震えが落ち着いてくると、純粋に生でこれをやる気迫の凄まじさに思い至る。この曲べらぼうに難しいのである。劇団四季のなかでも四十代以上のベテランしか出来ないとても大切な役柄の、作中唯一のソロ曲、悪役が悪役として覚醒する曲であると言えばそのハードルの高さがわかっていただけるだろうか。
佐伯も歌い終わりにむずかった〜とちった〜みたいなノリになっていたがこんがりと上手に焼けたオタクにとってはもうそんなことはどうでも良かった。みんなラブソングと言ったが、この難曲に挑む覚悟、勇気、技術を捧げたまさしく佐伯イッテツからノートルダムの鐘へのラブソングである。
いやそういう意図で言ったんじゃないと思うけど。普通にみんなからのリクエストなだけかもしれないけど。
ミヒャエルクンツェの書く女が似合いすぎる天才おしゃべりピンクも、リトこそミュージ…マッスルも、国内で流行らなかったブルーノを入れてくれたコハクDも、完璧な用心も、みんな良かったけど、最後にクソデカ祈りをぶつけられて、全身の筋肉が焼き切れてしまった。
こうしてオタクは、守りたまえ邪悪なヤニに焼き殺されぬようにと十字を切りながら2434円をブチ投げた。
いやほんと死ぬまでにもう一度聴きたいな……。