『水車小屋のネネ』を読んだ。

たちかわ
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本屋大賞にノミネートされていると知って慌てて読んだ。

谷崎潤一郎賞を受賞していたとは知らなかった。映画に行く前、本屋をうろついているときにはじめて知った。しまったと思った。

この作品が著者の代表作になることは間違いないし、なるべきだと思う。過去作の『ポースケ』に似たところはあると思うが、それよりも確実にパワーアップしていて、読んでいて不安になるところなんてどこにもないのだ。

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18歳の少女は進学が決まっていたのに、入学金を振り込んでもらえなかった。それは情夫が企業を始める資金に充てられていてしまっていた。それと同時に10個年の離れた妹も情夫から虐待まがいのことを知る。

そして少女理佐が妹を連れて独立するところから物語は始まる。

まわりの人に助けられてなんとか暮らし、次第に周りの人を助けるほうへチェンジしていく。そしてそれをじっと見守るのは就職先にいた(タイトルにもなっている)ヨウムの『ネネ』である。10年ごとで章は区切られ、40年が描かれる。

この物語の中で、手を差し伸べられた人は皆上手いほうへ道が開けていく。

実際そんなことあるわけないじゃん。悪いことだって起こるでしょ。と、ひねくれているわたしは思う。しかしそれが作者の祈りなのだろうとも思う。自暴自棄になっている人が助けを求められたとき、うまくいくようになってほしいと。

挫折して理佐の住む町に逃げ出すように引っ越してきた聡という青年のこんなセリフがある。

『報われないことを恐れなくて済んで、自分がそうしていたいだけ誠実でいられるんじゃないと思う』

わたしも誰に対しても誠実でいたい。しかし世界中の人に対しては到底無理だ。だけど、手の届く範囲に対してはせめてそうでありたい。

この作品は2021.7~2022.7にかけて毎日新聞で連載されていた。この優しく暖かな物語がコロナ渦に毎日読めるというのは幸せだなと思った。

同時に昔の記憶を思い出した。

高校時代に好きな作家が朝日新聞で連載をすることになったのだ。うちは違う新聞を取っていて読むことはできないと思っていたが、高校で朝日新聞もとっていることを知った。なんとか読めないか先生に頼んでみたが「新聞連載なんてだめだ」と取り付く島もなかった。考えつくすべてのルートを当たってみたが、返答は皆同じだった。もし、読ませてもらうことができていたらもっと楽しく通学することができただろう。

その連載が単行本になるとき、幸運にもサイン会へ行くことができて宛名を書いてもらった本を手にすることができた。それは今でも『よかった記憶』としてわたしの中へ残り、サイン本は本棚へ大切にしまわれている。

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わたし自身は2023年はつらい年だった。楽しいことも心震えることもたくさんあったが、それよりも悲しいことがあった。前半がめちゃめちゃで、後半は荒んだ生活をしていたように思う。まだそれに対しては片付いてもいないし踏ん切りも付けることはできていない。いつか誰かにさらりと話したり、書けるようになったりするときが来るのかもしれない。

だけどこの本が発売したときに買って、積んでおくことができたのは去年の自分の正しい選択の一つだろう。