2024上半期の連続テレビ小説、『虎に翼』が先週末で終わってしまった。
引っ越して以降、出勤前に朝ドラを見るルーティンができなくなり、今期はいいかなと思っていたが、SNSの評判が良すぎて結局見逃し配信を駆使して全部見た『虎に翼』。
第1週から最終週まですごく面白かった。面白かったなあと呟くだけでは何がよかったのか忘れそうだし、備忘録を残したい。
※備忘録なのであらすじは書かない。ネタバレ配慮もしない。配信もまだあるはずなので未見の人はぜひ見て。
・法律とは何か?を問い続けたドラマ
主人公、佐田(猪爪)寅子のモデルは日本で初めての女性法曹となった三淵嘉子さん。女性と仕事、戦争など色々な要素がある中で、法律とは何か?がずっと主軸だったところがよかった。
序盤、明律大女子部に入学したあたりで寅子と同級生のよねが「法律とは何か」という話をしているシーンがある。そこでよねは「法律は武器だ」と言い、寅子は「毛布のようなもの」と答えている。
そのやりとり自体、武器=弱い立場のものが虐げてくる相手を殴るための道具、毛布=弱っている人を包んで保護する、という二人の考え方の違いがわかっていいのだけど、そこから要所要所で「法律とは何か」という話が出てくる。
例えば寅子の父が巻き込まれた共亜事件のあと。無罪判決を出した桂場に「法律は綺麗なお水が湧いている場所のようなもの」と言う寅子。自分の父が事件に巻き込まれる経験を通して初めて、法律は誰かを守るための手段・道具ではなく「それ自体尊重すべきもの」であると気づいた、という印象的なエピソードだった。
また最終週では同じく桂場に「法律は大きな船」だと言う。船は人を乗せて海を進むことができるが、船自体が悪ければ乗組員を沈めてしまうことがある、だからより多くの人を取りこぼさず、また沈むことがないよう普段の努力をし、修繕する必要がある、と。
彼女がこの考えに至るまでには、戦後に食糧管理法を守って死んだ同窓の花岡や、平等の観点から問題がある尊属殺重罰規定など、「悪法もまた法なのか(守らなければならないのか)」という問いがあり、それへの答えにもなっている。
「法とは何か」というテーマを平易に、視聴者も考えられるように投げかけてくるというのはすごい。
とらつぐみは社会科の教員免許を持っているが、公民の授業で必ず出てくる話として「法の支配」という考え方がある。端的にいうと「法律は人民を支配するものではなく権力者を縛り人民の権利を守るためのもの」、ということだ。
法の支配を尊重する、と言う意味では“法律は水源”だし、法が人を縛るのではなく人を護るという法本来のあり方に近づけていくべき、という意味では“法は船”なのだ。
また、戦後編の主軸として憲法14条(法の下の平等)が捉えられていたのも印象的だ。
妊娠を期に心が折れて弁護士の仕事を辞め、戦争で大切な人をなくしてうちひしがれる寅子が河原で新聞を読み、日本国憲法の公布を知るシーン。
憲法14条を見て、戦死した夫の優三が“どんなあなたでもいいから、あなたがなりたい自分でいてほしい”と言ってくれたことを思い出す。
人種や性別、身分によらず差別されないという憲法14条と同時に、“あなたは何にでもなれる”という愛する人からの言葉が蘇る。
平等というのは突き詰めるとつまりそういうことだ。誰もが、自分の置かれている状態に縛られず、個人として尊重される。何にでもなれる。では今の社会は、そんな“法の下の平等”が達成されているだろうか?
主人公が女性が置かれている状況に疑問を抱き、法とは何かを考え、行動し始める序盤に対して、戦後編は寅子や仲間たちが戦争や様々な離別によって負った傷から立ち直りながら、「この状態は平等か?」と問い続けていく話になっていた。
時代やライフステージに合わせて主人公やその周囲に色々な問題が起き、それに対して主人公が七転八倒しながらも、「法とは何か」「この社会は平等か」を考え、問い続ける。かつてこんなドラマがあっただろうか。
・ブレない「おもしれー女」
最初が思ったより真面目な感想になってしまった。どっちかというとこのドラマの面白さはこっちです(ほんまか?)。
寅子は、伊藤沙莉さんの愛嬌があって愛らしいキャラになってはいるが、身近にいたらちょっと「お、おう」ってなるタイプの人だと思う。
初対面でぐいぐい距離詰めてくるし、全然遠慮しないし、よくしゃべるし。側から見てる分には痛快だけど、自分がいる場所で「はて?」って言って空気を凍らせたりしたら「やめてくれ〜」って思ってしまうと思う。正直。
でも共感できるところもあり、人の機微にめちゃくちゃ疎いところとか。生理でしんどいと顰めっ面になるところとか。素直だとか色々いいところもあるが、短所も目につく人間くさい人物造形。
寅子は端的にいうといわゆる「おもしれー女」ってやつだと思う。「この人はこんな人なんだな」と型にはめようとすると、そこからするりと逃げ出す。絶対に物分かりのいい女にはならない。
そしてそれは、彼女が学生の時から、弁護士になり母親になり裁判官になってもずっと変わらない。成長はしても本質がぶれることはない。
戦後、生活のために裁判官になって一時期「はて?」を封印していた時、桂場に「お世辞を言うなんてつまんねー奴になったな(意訳)」って言われていたの面白すぎる(後述するけど桂場も大概おもしれー男だ)。
というか虎に翼の登場人物はだいたい皆「おもしれー男/女」だ。単なる「いい奴」もいなければステレオタイプ的な「やな奴」もいない。
まず猪爪家がおもしれー家族だ。頼りにはならないけど娘をめちゃ愛してるお父さん。聡明だからこそ娘が心配なお母さん。俺にはわかる(わかってない)お兄ちゃん。強かな女(嫁)に見えて人一倍繊細で、寅子の理解者でもある花江ちゃん。
女子部の同窓生でいうと、「お気立てに難がある(やな感じ)」だが他人のために怒り続けられる“よねさん”。「家」に縛られてたけど自分の力で吹っ切れる強さがある“梅子さん”、朝鮮出身だったために時代に振り回されたけど優しく強い“ヒャンちゃん”、華族が没落しても自身の気高さで「お嬢様」であり続けた”涼子さま“。
それから大学の同期だと、「男らしさ」に囚われていたが主人公たちに感化されて変わっていった花岡と轟。花岡は自分を誤魔化す生き方をやめられたのに、いや誤魔化すことができなくなったからこそ法を守って死んでしまったのが悲しい。轟は過剰に“漢であろうとした”のが実は自身のセクシャリティが関係していると後に明かされ、印象が大きく変わった。
大学を卒業してからもずっと「やな奴」だった小橋が、実は「自分は凡庸なのではないか」というコンプレックスと戦っていたことがわかったのも印象的だった。
ほかにも堅物で保守的だけど実際は法の独立ガチ勢で潔癖でロマンチスト、甘党で酒に弱くて酔っ払うと皿をかじる(?)桂場、ちょび髭でずっと「愛」って言ってる謎の人だけど「法は人が幸せに生きるためにあるべき」という点で熱い想いがある多岐川、などなどなど......
いや面白すぎか。脇役の人たちでスピンオフ10000本くらい作ってくれ。
SNSでも散々言われているけど轟とよねの法律事務所のスピンオフはめちゃくちゃ見たい。この2人の”なんかずっと喧嘩してるけど実は互いをめちゃ信用してて弱みをさらけ出せる“バディ感が最高に好き。2人を恋愛関係のないバディにしたの1億点満点すぎる。こういうの”が“いいんだよこういうのが(それと比べるとよね→→→寅子の矢印のデカさはいったいなんだったんだ......)。
主人公の最初の夫、優三がめちゃくちゃいい男なのははた言うべきにあらず。最初は猪爪家の書生で遠慮がちだったけど実は寅子に恋心を抱いてて? 社会的地位のために結婚したいという寅子に「僕も地位を向上させたいから」と言って結婚を申し込み?? そのあとぼそっと「実はずっと好きだったんだよね」と漏らしちゃう???? この人を好きにならない視聴者がいるのか。
......実をいうとわたしも“優三さん”が好きすぎて2番目の夫の星航一とその家族が出てきたとき「なんだお前ぽっと出のくせに......」的な感想を抱いていた(笑)が、航一も魅力的な人ではある。
戦争によって心に傷を負い、家族とも周囲とも距離をとり心を閉ざしていたが、寅子と出会ったことで少しずつ心を開き、不器用なりに溝を埋めていこうと努力していた様がいい。あと顔もいい(?)。
この調子で登場人物の好きポイントを上げていけば夜が明けるのでやめておくが、とにかく登場人物が“完璧ではない、不器用だったりダメだったりするけど、憎めない”といういい塩梅だったのがとてもよかった。
明日から虎に翼ロスのまま仕事に行くのがつらすぎる。定期的に再放送してほしいしアマプラとかにも配信にきて欲しい。見るから。ロケ地になってる名古屋にある資料館も行きたい。
あと主題歌「さよーならまたいつか」もよすぎる。序盤の台本だけを渡されてあの歌詞を書いた米津玄師は天才(知ってた)。ドラマの放送がなくてもあれを聴きながら仕事行こう......