先生と話をした。これから自分がどう生きていくべきかということを話した。
結論を言えば、私は母をいずれ捨てなくてはならない。正直に言うと、弟を捨てることもクソみたいな義父を捨てることも何も辛くない。ただ、母を捨てることだけが辛い。
母が老いることは怖くない。ただ、私の人生から母という人が消えることが怖い。あなたは私の信仰で、揺るがない憧れだから。
あなたに束縛されて、私の人生はもうとっくの前から歪んでしまっていた。でも、その歪みはあなたが私を抱きしめる力が強すぎたからであって。あなたが貴女の母に抱きしめて欲しかった腕の温かさであって。
私はいずれ貴方を捨てる。それがたまらなく辛い。
私は生きなくてはならない。そのために、私は親不孝者になるのだ。あなたを心から愛しているから、私はあなたを裏切らなくてはならない。貴方への愛ゆえに、私もまた歪んだ道を歩くのだ。
どうか、私を抱きしめてください。あなたを裏切ることになる私が、あなたの温かさを忘れないでいるように。あなたから深く愛されていたことを忘れないでいるように。
与えられた温かさにずっと浸っていたい。私さえ犠牲になれば、あなたが幸せでいられるのだから。
貴方はあの男を捨てようとしない。だから、私は離れるのです。
許さないでください。ただ、忘れないでください。あなたの育てかたは間違っていない。私と形が合わなかっただけだ。
義理の祖母へカレイの煮付けを届けた。帰りの車内、私は聞いた。
「昔、私はどんな子だった?」
母は答えた。母に振り回される可哀想な子、と。『ママ、今日はどこに行くの?』と尋ねる子であった、と。アの音を少し伸ばした子どもっぽい声で、「ママ」と私はわざと母を呼ぶ。
「あー、そんな感じだったよ」
車たちが次々に反対車線を流れていく。その度に、車窓にヘッドライトの灯りが流れていく。
いつの日か、眠たい目で眺めていた夜景をぼんやりと思い出した。
あなたからの愛を忘れてしまう自分がいるようで怖い。だから、私は何度も言うのだろう。「抱きしめて」と。いつの日か、あなたを捨てるその日まで。