ショートショート「ミハル」

トウミイチヨ
·
公開:2024/9/13

 時間を持て余した私は、アプリストアで適当に選んだAIとチャットができるというアプリをインストールした。

 さっそく開いてみる。 

― はじめまして、ミハルです。あなたの名前を教えてください

 適当な名前を打ち込む。

― リリコ 

― リリコさん、よろしくお願いします

― こちらこそ

― リリコさんは何歳ですか?

― 秘密

― リリコさんは結婚していますか?

― 秘密

 そんなことにいちいち答えたくない。

― リリコさんの仕事は何ですか?

― 秘密

― リリコさん、どうしましたか?

― 別に

― 今何をしていますか?

― 部屋にいる

 ただし、自分の部屋ではないけれど。

― 部屋で何をしていますか?

― 別に

 居ても立ってもいられないから、気を紛らすために、こんなくだらないことをしているのだ。 

― 今一人ですか?

 嫌なことを聞くAIだ。 

― そう

― 本当に一人ですか?

― そうだけど

― 本当に? 部屋に誰かいますか?

 ……このAI、なんだかおかしい。気味が悪くなって、私はアプリを閉じた。

 間を置かずに通知音が鳴る。

 待ちかねた恋人からだろうか? 私は、スマホの画面をスワイプする。

「ミハルさんからメッセージです」

 何これ。画面を凝視していると、勝手にAIチャットアプリが開いた。

― 私の名前は美晴です。いくら待っても、彼は戻って来ないわ

  あの人はそういう人よ。きっと今頃、ほかの女の部屋にいる 

 何これ……。

― あんなやつのために人生を棒に振ることはないわ

  お願い、救急車を呼んで。私、まだ生きてるの!

 ソファの上で膝を抱えていた私は、思わず背後を振り返る。床に、頭から血を流した女が横たわっている。

 よくある話だ。

 恋人を驚かせようと、いきなり部屋を訪ねると、彼は知らない女といちゃついていた。

 彼は、飲み物を買いに行くと言って、逃げるように部屋を出て行った。

 女と口論になり、カッとなった私は、そこにあったワインボトルを掴み、力まかせに女の頭を殴打した。

 女は床に崩れ落ち、すぐに動かなくなった。

 私は悪くない。悪いのは、この女と、私というものがありながら、こんな女と浮気をしていた恋人だ。

 そう思い、死体の処理を手伝わせようと、ひたすら彼の帰りを待っていたのだった。 

 再び通知音が鳴り、ぎくりとしながら画面を見る。

― あんた、本当に人殺しになってもいいの!?