時間を持て余した私は、アプリストアで適当に選んだAIとチャットができるというアプリをインストールした。
さっそく開いてみる。
― はじめまして、ミハルです。あなたの名前を教えてください
適当な名前を打ち込む。
― リリコ
― リリコさん、よろしくお願いします
― こちらこそ
― リリコさんは何歳ですか?
― 秘密
― リリコさんは結婚していますか?
― 秘密
そんなことにいちいち答えたくない。
― リリコさんの仕事は何ですか?
― 秘密
― リリコさん、どうしましたか?
― 別に
― 今何をしていますか?
― 部屋にいる
ただし、自分の部屋ではないけれど。
― 部屋で何をしていますか?
― 別に
居ても立ってもいられないから、気を紛らすために、こんなくだらないことをしているのだ。
― 今一人ですか?
嫌なことを聞くAIだ。
― そう
― 本当に一人ですか?
― そうだけど
― 本当に? 部屋に誰かいますか?
……このAI、なんだかおかしい。気味が悪くなって、私はアプリを閉じた。
間を置かずに通知音が鳴る。
待ちかねた恋人からだろうか? 私は、スマホの画面をスワイプする。
「ミハルさんからメッセージです」
何これ。画面を凝視していると、勝手にAIチャットアプリが開いた。
― 私の名前は美晴です。いくら待っても、彼は戻って来ないわ
あの人はそういう人よ。きっと今頃、ほかの女の部屋にいる
何これ……。
― あんなやつのために人生を棒に振ることはないわ
お願い、救急車を呼んで。私、まだ生きてるの!
ソファの上で膝を抱えていた私は、思わず背後を振り返る。床に、頭から血を流した女が横たわっている。
よくある話だ。
恋人を驚かせようと、いきなり部屋を訪ねると、彼は知らない女といちゃついていた。
彼は、飲み物を買いに行くと言って、逃げるように部屋を出て行った。
女と口論になり、カッとなった私は、そこにあったワインボトルを掴み、力まかせに女の頭を殴打した。
女は床に崩れ落ち、すぐに動かなくなった。
私は悪くない。悪いのは、この女と、私というものがありながら、こんな女と浮気をしていた恋人だ。
そう思い、死体の処理を手伝わせようと、ひたすら彼の帰りを待っていたのだった。
再び通知音が鳴り、ぎくりとしながら画面を見る。
― あんた、本当に人殺しになってもいいの!?