先日久方ぶりに母校へ足を運んだ際、後輩から設定資料本を読みましたと報告をもらいました。そのとき、あとがきが特によかったですと言われたのです。
他よりも強めに感情を込めて書いたあとがきだったので、ちょっと嬉しかったのです。 なので公開してみます。以下本文です。↓
トラック右側の、反転した文字を探しながら送る人生はかなり楽しいものです。街を歩いていると、トラックとすれ違うことは度度あります。助手席側の面の文字は左から右の順番で読めるようになっていますが、運転席側の面に印字された文字は、右から左の流れで配置されています。
これは、走行しているトラックを進行方向から見た際、文字が読みやすいようにするため逆向き表記としているからだそうです。
このような反転文字の楽しみ方を適当にお伝えします。まずは反転した文字を見つけます。次に、心の中でちょっと読んでみるのです。スジャータが、ターャジス、となるように、全く違う生き物へ変化してしまいます。
これだけで面白いから、この世界は飽きません。国語の辞典が我々の頭の中にあるからこそ、面白い遊びなのです。ある言葉があるからこそ、ない言葉は面白い。こういった、言葉のように過去の人間が生み出したものたちのおかげで私たちの生活はとても豊かです。先人達が命を削り、そのバトンを受け継いで構築してきたこの世界は、ひとの一生だけでは全てを知り尽くせない。そんなところが趣深く感じます。
それはきっと、庵郷茂亜もそう思って生きています。庵郷の素敵なところは、世界が美しく見えていること。世界とは、山や海といった自然だけでなく、生き物や建造物、地球に存在する全てのことを指しています。そして、その中の生き物の中に人間のことも含まれています。下劣で汚れた面すらも愛してしまうような、世界を尊いと思う、そんな大きな心を彼は持っていると私は信じています。(しばしば心は狭いですが)この世界には、我々にそう思わせてしまう圧倒的な美しさを持っています。
私はやはり、この世の全てを愛したい。そう思って生きていますが、なかなかにこれが難しい。
だからこそ、目の前のものから愛してみようと思い、この本の制作に至ります。私が生み出した、自身の化身の如きこの一次創作を愛するための一冊です。
一次創作を始め10年目にして生まれた創作「天使も通らない」は、長らく新しいキャラクターを制作していない時期にふと描いた落書きが発端でした。天使の鸞は我々が住む世界の事を何も知らないのに、何故か蹴球の事だけは知っている。そんなトンチキ天使とごく普通の男子大学生が出会い、のんびりとした生活を送るものでした。
当時の記憶はとても曖昧で、男子大学生が庵郷茂亜となったのはグラデーションのようにぼんやりと浮かび上がってきたもので、どうしても思い出すことができません。
ただ、今でもわかるのは、全く違う生まれの者でも、なんやかんや仲良くなれるのだと、当時からそれを信じていた事は確かです。
庵郷茂亜の、交友関係は広くもなく、かといって友人一人一人の関係は深いものでもない静かな面を持ちつつも、自身のテリトリーを土足で侵す天使たちにはズケズケ言いたい放題なオタクのような面があるところがとても好きで、なかなか人間らしく可愛らしいなと常々考えながら私は生活しています。
Cの、一つのことに興味が湧くととことん熱中し、寝食も忘れてしまうほど突き進んでゆく姿も愛おしく感じます。笛利紅成の心の奥底にあるであろう「無条件で愛されたい」という感情も実に人間らしい。
そして天使たちも、「天使」という種族でありながらも使命を全うすることなく、だらだらと人間界に染まっていくその姿がまさにヒトらしく、面白おかしい。そんな天使には、人間らしくなる一歩として、人間界の食べ物に夢中になってもらいました。
鸞はジャンル問わず食べ物に興味津々で、大盛りのご飯に心を奪われます。凰は甘い物が特にお気に入りで、麟はスパゲッティのソースと麺の絡まりに魅力を感じています。亀は食べ物の元生物であった面に翻弄され、竜はスイーツにもカワイイという感情を抱きます。狐の食べ物の趣味は、狐の性格を表しているかのよう。獬は食べ物そのものからそれら歴史へと興味が移る勤勉家。
私は”食べることは生きること”だと親族から散々言われて育った身でもあるため、食事をするいうことは、生きることすなわち生命として存在することに直結すると考えています。天使という種族はふつう、霊的な世界に属するヒトならざる物として描かれることが多い印象ですが、そんな天使が食べ物に興味をもち、生命ごっこを行う。生命を全身全霊で行っている我々からすれば舐めた真似しやがって、とも感じますが、「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり」的な趣があるのではないかなと。
すみません、適当です。
そんな中で、段々と人間くさくなってしまう彼らに情が湧いてくるのです。結論、私は「人間」が一番好きなものなのだと気付かされました。
この創作は、等身大の私を愛せるようになったためか、3年経った現在も愛し続けられています。
しかし、自身を好きでいられるようになれたのは、私だけの力ではありません。周囲の友人や恩師がいてくれたこそ、今のtoyが存在しています。今回イラストを寄稿して頂いた皆様はまさにその中心人物ばかりです。私は、そんな素敵なみなさまとの繋がりには非常に感謝しなければならない。今までも、これからも、全員を愛し続けたいとそう願います。
気づけば長々と語り続けてしまいました。天使が通らないうちにお話をやめにしなければなりません。お話ししたいことはまだまだ沢山ありますが、それは次回の書籍に残しておきます。
それでは、ここまでお読み頂いた皆様に厚く感謝を申し上げます。また世紀末でとは言わず、近いうちにお会いしましょう。
2023.09.03 toy