なんだかまだ分からないけれども身体に異変が起きている母を連れて、ついに総合病院へ。先に父が母を連れて受付などを済ませており、私は子どもを保育園に預け、支度をして駆けつけました。
検査、そして
待合で待つ母はなんとなく不安げな表情。それもそのはず。診察前検査のひとつである尿検査が全く出ないらしく。それはもう乏尿なのでは?と思ったけど父曰く「いや昨日までは出てたんだけどね…検査のために食事も食べず水分も取らなかったからかもしれない」とのこと。張り切りすぎです。
血液検査をする看護師さんに「尿が出ないみたいで…尿検査やらなくてもいいですかね?」と聞くも「出るまで待ちましょう!」とのこと。私も父も、久々の病院、しかも自分の身体の様子もおかしいので緊張して出ないのかな?とか呑気なことを考えていました。でも実際のところ、母は自分の身に起きている異変を口にしないだけだったのは後になってから思い知らされます。
出ない尿検査、ひたすらカップを持ち検査室と待合をうろうろ。それでもひとまず血液検査で終わりかな?と思いきや、しばらく待つと追加検査で腹部CTも行うとのこと。造影剤を入れてCTの検査場へ。足のむくみで歩くのがとてもしんどそうですがなんとか歩いて向かう母。終わったあとは検査技師のお兄さんかっこよかったね〜、なんてお話をしてさらに待合でしばらく待つことに。
朝9時に受付をして呼ばれず時刻はもう11時。さすがは総合病院の予約外診療です。にしても待ち疲れたし母の体力も心配だし…と思った矢先、ついに看護師さんらしき方から声がかかります。
「すみません!ちょっとこちらの部屋に来ていただいて先生からお話を伺ってください」
あぁ、これは。
とっくに死んでいてもおかしくない
通されたのは救急外来。通常の外来だと待ち時間がかかるからなのか、はたまた「特別なお話」があるからなのか。
覚悟はしていました。
「◯◯さん、肝臓の数字が非常に悪い。この値もこの値も…低すぎる。あと腹部のCTの結果、お腹に相当水が溜まっています。今まで病院にかかっていなかったのですか?」
地元で一度肝臓の治療をしたものの良くならず、その後病院にはまったく通っていなかったこと。どうしてそうなってしまったのか。いつから黄疸があって、いつからむくみがあったのか、などなど。母は耳が遠いので説明や受け答えは主に父が行い、時々私が補足するような感じで伝えられることはすべてお話しました。
「非常に状態が悪いので、すぐに入院して治療を開始します。◯◯さんは今からレントゲンを撮ってきてくださいね」
とのことで、母は看護師さんに連れられよく分からないまま車椅子で一旦退場。そして残される家族。これは。
「今の状況ですが、正直に申し上げると余命は数ヶ月でしょう。病名は肝不全です。肝硬変を通り越して肝臓が全く機能していない状態です」
驚きはありませんでした。事前に調べていたから。病院へ行く前日、どうしても病名が気になって症状から調べたところ、もともと家族内で予想していたがんというよりも、どちらかというと肝硬変や肝不全の症状に該当していました。
それを聞いて父は思わず落涙。ある程度覚悟していても、長年連れ添ったパートナーに対してあまりに辛い告知。初めてあんなに涙を落とす父を見てむしろそれが泣けてしまいそうで、必死に父の背中をさすって心を落ち着かせました。
「ただ、これは僕の経験から得た感覚でしかないんですが。たいてい肝硬変や肝不全を発症した患者さんは、◯◯さんほど悪くなる前に倒れて運ばれてきて、そのまま亡くなってしまう方が多いんです。とっくに亡くなっていてもおかしくない状況だけど、◯◯さんは徐々に高度を落として低空飛行できているような状態なので、今後も低空飛行をなるべく長く続けるような治療をしていければと思います」
その先生の言葉に私も父も救われました。まだもう少し生きれる可能性があるんだね。
「でも、無理な延命はしないでほしいです。本人がそう望んでいます。私たちは、母が苦しくなく過ごせるようにしていただければそれで十分です」
そして、あれよあれよと言う間に入院の手続きが始まりました。
とにかく家に帰りたい母
病院に行く前から入院になったらどうしよう、と母はずっと心配していました。
それは残される父のこともあるだろうし、お金のことや、誰にも心配や迷惑をかけたくない、ということ。そして、新年を家族で過ごせないかもしれない、という懸念。母はきっとこれが最後の正月になると分かっていたのでできれば家で過ごしたいと。
入院したのは12月6日。
入院の手続き等を進めたあと、主治医になる先生と父と私でお話をしました。先生曰く「とりあえず1週間を目安に利尿剤を注射するなどして合うお薬を見つけて改善の度合いを見ましょう。極端に悪化せず、現状維持以上の結果になれば2週間程度で退院できるかと思いますよ」とのこと。もしかしたらお正月に間に合うかも?
母は「今からもう入院なの?家に一回帰れないの?」と戸惑っていたので「とりあえず1週間くらい様子見るために入院だって。よくなればすぐ出れるからちゃんと先生と看護師さんの言うことを聞いてね」と、退院についてはお茶を濁しながら伝えました。がっかりしていましたが仕方ない。とにかく今はむくみがひどいので、利尿剤が効いて少しでも楽になってくれることを祈り、病室を後にしました。
その後父と遅い昼食をとり、母の入院用品の準備。お互いに戸惑いはありましたが「母のためにやるしかない!」という気持ちで前に進まざるを得ないような感覚でした。家に着いた父は「寂しいなぁ」とぽつり。
そうだよね、寂しいよね。でも掃除とか洗濯とかちゃんとやるんだよ。ちゃんとしたもの食べるんだよ。そう伝えて自分も家路につくのでした。
さすがに悲しいわ!
家に着いたとたんにどっと疲れが出た。無印の人をダメにするソファにもたれる。在宅ワークだった夫が心配そうな顔で出迎えてくれる。今まで堪えていた分の涙がどっと出てくる。
「おかん余命そんなにないって。がんとかじゃないんだけど肝臓がもうダメになってて。今日即入院した」
悲しいなぁ。なんでもっと強い気持ちで病院に連れていけなかったんだろう。もう少し早く医療と繋がりが持てていれば母は今だってもう少し元気に、孫の成長だってもっと見守れるような人生だっただろうに。
「ひと月持たないかもしれない…わからんけど…いつ何があってもおかしくない状態」
「それなら後悔しないようになるべくお見舞いに行ってあげなさいね」
夫の優しい言葉が沁みる。そうだよなぁ。でもこれから1ヶ月くらい仕事が忙しいんだよなぁ。正直仕事こなせるような精神状態じゃないけどなぁ…。
とにかく弱音をどこかに吐かないと、いろんなものに潰されそうだった。
余談 肝硬変と肝不全について
主治医の先生から聞いたり調べたりした内容をざっくりまとめると、
肝硬変
肝炎・脂肪肝などを治療せずに放っておくと肝臓の組織が損傷し、肝臓が本来果たす機能が損なわれ、さらに放っておくと再生もできないような状態になる。
肝機能が損なわれると体内で作られる毒素などの老廃物が代謝・分解できなくなり、体内にアンモニアなどの毒素が溜まり続けていく。また、タンパク質を作れなくなり、栄養バランスが崩れるほか血液の凝固ができなくなる。
肝不全
肝硬変が進行すると肝機能がさらに低下した状態になる。
肝不全では肝硬変の症状に加えてさまざまな合併症が起こる可能性が高くなる。
黄疸が起こる
皮下出血や傷の血が止まらなくなる(血液凝固障害)
食道や消化器に静脈瘤ができやすくなり吐血や下血の可能性と失血性ショックのリスクがある
アルブミンが肝臓で作られないため血管内の水分のバランスがおかしくなり腹水やむくみが起こる(低アルブミン血症)
肝臓で有害物質を処理できず、血液から運ばれた有害物質が脳に蓄積し脳の機能が低下する(肝性脳症)
など。他にも腎不全のリスクも増えたり、免疫系が機能不全に陥るため感染症にかかりやすくなる、栄養がうまく体内で吸収できない。など、さまざまな合併症が恐ろしい病気。
とのこと。
特に怖いのが血が止まらないことによる吐血や下血だそうで、魚の骨が刺さったら死に直結するのでNGと言われました。
また、肝性脳症というのはいわゆる「認知症」のような症状で、初期症状としては健忘や抑うつ・怒りっぽくなるなどの症状があり進行すると昏睡し死に至る、というものだそうです。私はこの合併症が一番つらいと感じています。
実際、母は以前からこちらが言ったことをあまりよく覚えていないようなことがあり、それは単なる認知症の入り口かと思っていましたがまさか肝臓から来ていたとは。
ひとえに肝臓が悪い、と言ってもさまざまな合併症を併発する可能性があり、肝硬変や肝不全はがんに匹敵するくらい恐ろしい病気だと感じました。
肝臓は沈黙の臓器、と言われています。軽い炎症や損傷なら自己回復・再生できる能力を持っており、重症になるまで症状が表に出てきません。とはいえ基本的に定期通院や健康診断など医療の介入があれば発症を防げたり、進行を遅らせたりできるものです。
母はさまざまな要因が重なって医療にたどり着けず残念な結果になりました。
健康診断は大事です。かく言う自分もここ数年行っていなかったのでこれを機に早めに受けてこようと思います。
みなさんもどうか自分の体をお大事にしてください。