下巻感想は全編ネタバレしています。ご注意ください。
上巻を読みつつ、こういうことを思い出していまして。
public何とか か、何とかpath、か、そういうのだったような(違うような)朧げ過ぎ。これを踏まえて『リンゴ畑のマーティン・ピピン』下巻感想!
第4話 オープンウィンキンズ
「あ、これが一番好きかな!」「これ以前の3話読んでる時も同じことを思ってたけどな!」と読みながら一人上手を炸裂させていました。「これが一番好きかな!」を常に更新しながら読んでたなあ……
わたしは子供の頃、外国の昔話が好きでよく読んでいました。このオープンウィンキンズっぽい話があったなあ。ある家に兄弟が三、四人いて、まず長兄が冒険に出かけて、帰って来ないので次兄が、と順に出て行って、ついには末っ子ひとりになって、その末っ子が謎を解き…という話。が、こちらオープンウィンキンズは、末の弟から出かけて、順々に兄が、という流れで、更に弟たち(ちょっと様子は変だけど)帰って来てるし。どうなるのかな、ほ、ホブ、がんばってね! マーガレットと一緒に幸せになってね! と思いつつも、マーガレットの櫃にあった肌着が――!
弟たちのモチーフを取り込んだ肌着が! マーガレットは実は悪い魔女で、という展開はないだろうとは思ったけど、これは、もう、本当に めっちゃ好み……!!(才能とか美しさとか、良きものを持ち主から切り離せるっていうの、いいよね)(そしてその良きものが長続きしないっていうのもいいよね。ホブの愛とは対照的で)そして約束の最後の日、ホブがマーガレットに告げる内容がまた――
ここには、わたしのシャツがある。今夜、わたしがここを去ったら、あなたはオープン・ウィンキンズにもどり、弟たちのシャツからししゅうの糸をはずしなさい。あすの朝、弟と会えば、あなたが、そうしてくれたかどうかわかるだろう。しかし、そのかわりに、わたしは、あなたにわたしのシャツをあげる。これを、あなたのすきなようにするがいい。
シャツをマーガレットに渡す、ということは、自分自身を明け渡すことになる、弟たちと同じように良きものを失ってしまう。ホブは疲れ果てて領地に戻り、彼の庭で金色のバラを見つける。が、完全に美しいバラではなく、底に黒い小さな蛇がとぐろを巻いていて―― その不完全な美にホブは大笑いしてオープンウィンキンズに戻る。これも夢の水車場と同じく、おまけの話がないとだめだな。娘たちに「それで終わっていいのか!」と突っ込まれた時、ピピン殿はこの話さえもこんな感じで
「どうしてこう、いつも、あっちに何かつけたり、こっちの細工を変えたりしなければならないのだ? 一度、恋人がキスをしたら、死が何だというんだ。しかしながら――」
で、おまけの語りで、ホブはマーガレットの髪を抜いていくんだけど、良きものと同じで、よろしくないものもまた切り離せるんだなあ、と。ただ、良きものは長続きしないのに、よろしくないものは浄化して封印しないといけない。美しい、夢のようなお話には教訓はいらない派なので、この話で作者が言いたいこと云々というのはまったく不要なんだけど、これは、教訓が何とかではなくて(わたしが気づいていないだけで)普遍的な何かなのかな、とも思う。
第5話 誇り高きロザリンドと雄ジカ王
「あ、これが一番好きかな!」「これ以前の4話読んでる時も同ry!」と読みながら一人上手をry いやー、これって初読でしかできない醍醐味だよね。
廃墟に住む美しい娘ロザリンド、ティンカー兼渡し守(渡し賃が握手っていいよね)兼狩人、マルチタレント ハーディング、美しい雄ジカ、美と力を持つ女王モードリン、古代の名細工師ウェイランド…… と期待せずにはいられないラインナップである。
ロザリンドがお金を願って、いくばくか置かれていて、実は、というのが意外だった! 本当に魔法の話だと思ってたから! てっきりウェイランドが置いてくれてたと思ってた! あと下手くそな剣、弓の使い手、錆びた騎士もウェイランドじゃないのと思ってた!「とっしょりに何させるんじゃ」……違うか「まだまだ若いモンには負けんぞ」かな(どっちも違った)。「こうなるんじゃないかな」と思ったことがすべて裏切られました。女王がヤケになってシカを射ようとして、ロザリンドが庇ってーーとか、実は女王がハーディングの母とか、シカの正体がウェイランド(どれだけウェイランドに期待していたのか)とか! 騎士が貴婦人のために戦い、勝利を捧げる、獣を狩り、獲物を捧げる、これが普通の風習であれば、ロザリンドはものすごく前向きというか、ひとり立つ、というか、強いな。かっこいいな。
第6話 囚われの王女
これを読んでた時、やっぱりこれを思い出していました。
エピローグ
「あ、これが一番好きかな!」「これ以前の6話読んでる時も同ry!」と読みながら一人上手をry いやー、これって初読でしかできない醍醐味ry ほんっとーに! 目が覚めた! これは丸ごと、ピピン殿とギルマン(ジリアンのとーちゃん)とのやりとりだけなんだけど。すごい……! ジリアン父とジリアン母の馴れ初めで7話目?とか思っていたら……! 6話のあいだ、ずっと敷かれていた伏線が回収された――!
「しかし、近道というのは、ちょいちょい袋小路になるもので。」と、マーティンはいった。
「(略)ここにあるのは、何だな?」ギルマン老人が聞いた。
「脚立。」マーティンはいった。
「何に使ったのだ。」
「乳しぼりむすめと牧夫たちが。」
(略)
「だが、スタイルをこえてゆけば、やみ夜でも、六カ月前に、らくらくにげだせたものを。」と、ギルマン老人はいった。
スタイルというのは、まさしくコレで、注釈にも、
ほらー! だから魔法も使われてないし、結界も貼られてない! 乳しぼりのむすめたちが木戸を守っている、それだけの、ただのふつーのリンゴ畑だったー!(と思ってたら、このあと、鍵さえもかかっていなかったという記述があったー!)本当にこのエピローグには驚いた! よくできたミステリの種明かし編? ホントにすごかった……! あ、あれも? あそこも? とページを戻りまくりました。ジリアン父、めっちゃ理解がある……! というより、すべてを把握している……! そしてマレイ川のエピソード、すごくいい……!
結 び
「あ、これが一番好きかな!」「これ以前の7話読んry!」と読みながら一人上ry いやー、これって初読でしかできない醍醐味ry (もういい)
ね! ジリアンはぶらんこで飛ぶ前にピピン殿に訊いてたよね! どうして従者は自分で王女を迎えに行かなかったのか(行動したのは旅の者だった)と。そして本当に七つめの物語、ピピン殿の小屋のそばに流れるマレイ川、シルヴィアという美しい子供が遊ぶ場所。
後奏曲、エピローグ、結び、と、6話めを読み終わって、まだこんなにあるの? と思っていたんだけど、いやー、必要だった! むしろこの三つの話がなくては、今までの6話が生きないのでは。本当に面白かった、空気に漂う粒子レベルで美しい物語、たくさんある謎、解けたものも解けないままの謎も、ロビン・ルーの流した涙も、スカモリーのバラ、ピピン殿とギルマンのスロージン談義も、ジリアンが登った樽も。本当に良かった。らぶらどさん、ありがとうございます♪