「きらめき」の目撃者による証言【EX01】

ひよこひよ
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 最近、ずっと特定の俳優さんの一人について話をしているのだが、今日は別の俳優さんの話をしようと思う。

 なんてったって、今日は彼のお誕生日なのだ。ただ、公開アカウントはいずれも仕事やら二次創作やらで使っているので、直接コメントを送るのは憚られる。だから、しずかなインターネットの隅っこにある秘密基地から、ひそかに祝いたいと思う。おめでとうございます、岡宮来夢くん。

 彼の演技を初めて目の当たりにしたのは、もちろん「ミュージカル『刀剣乱舞』」の1作品だった。本当なら「葵咲本紀」にて生で彼の演技を観測する予定だったのだが、いろいろあってチケットが取れた当日は中止。本当ならば、次に出演した「歌合乱舞狂乱2019」を観に行きたかったのだが、当時の私は仕事を休むこともままならない状態で、チケットを取れたところで観に行ける見通しが立たなかった。すると、同行予定だった白いお友達が「配信を一緒に観よう」と誘ってくれて、彼が推しの鶴丸国永を演じているところを初めて目撃することとなった。

 KENNさん、黒羽麻璃央さんといった面々を挙げても分かりやすいのだが、どうやら私は歌が上手い男性芸能人を好むらしい。例に漏れず、岡宮来夢くんも当初からかなり歌唱力があった。この頃はまだ新人でボイストレーニングもしたことがないと語っていたはずなのに、それにしてもやたらと上手いのである。おまけに、可愛い外見とは裏腹に男性らしい低い声ときた。彼は鶴丸国永にぴったりの逸材だったのだ。

 歌合の時は初見だったこともあり、純粋に「ミュージカル『刀剣乱舞』」を楽しんでいたのだが、ここで彼の演じる鶴丸国永をいたく気に入ってしまい、やっと観ることができた「葵咲本紀」では、そのほとんどの記憶を消し飛ばしてしまう。

 画面の向こうの鶴丸国永を見て、私は「本物がいる」と強く感じた。私は目を見開いて鶴丸国永の姿を追った。彼の姿が見えなくなってから、遅れてじわりと込み上げてくるものがあった。

日記「ミュージカル『刀剣乱舞』~葵咲本紀~【ネタバレなし初見感想】」より抜粋

 当時は目を見開いて彼の姿を追っていたのに、何故かあまり顔を思い出すことが出来なかった。私は不思議に感じていた。

 そして、彼の演技を観て、私はこうも思ったことを鮮明に覚えている。彼を観ていると、なんだか今の自分が自分らしく生きていない心地になったのだ。

 その頃の私というものは、自分を押し殺して生きていた。したいこととか、やりたかったこと、なりたいものを全部なかったことにして生きていた。しかし、岡宮来夢くんを……いや、岡宮来夢くんの鶴丸国永を観ていると、何故かそのことを思い出してしまうのだ。

 遠い昔にアイドルになりたかった私、中学時代にイラストレーターになりたかった私、高校時代に美大を目指したかった私……様々な後悔に押しつぶされた昔の私の夢が、息を吹き返すのを感じた。でも、それは叶わなくて。彼の姿を観て、息を吹き返す過去の私を殺さなくてはならなくて、それがどうにも苦しかった。

 岡宮来夢くんはとっても素敵で好ましい俳優さんだ。なのにどうしてだろう。彼を観ていると、どうしてこんなに苦しくなるんだろう? それを突き詰めると私は立っていられないような気がして、考えないようにしていた。

 コロナ禍で人の移動が規制され、「静かの海のパライソ」などの公演も中止となったあの頃。彼がまだオスカープロモーションに所属していた頃の企画動画を観た。今は削除されてしまってもう観られないはずだが、確か、はちみつレモンを作る動画だったと思う。

 その動画を観て、私は「ん?」と首を傾げた。彼の周りにきらきらとした光の粒が舞っているように見えたのだ。視線を外すと、そんなエフェクトは動画の画面にかかっていない。もう一度、岡宮来夢くんを見る。やっぱり、きらきらが見える。あれ? どうして?

 上手く言葉で表現できないが、彼の周りを無邪気な精霊が舞っているような感じがした。オーラとは違うものだという確信がある。霊感に乏しい私の目に、はっきりとした「きらめき」が見えたのだ。

 今思うと、光の粒が舞っているように見えるくらいに、私には岡宮来夢くんの姿が眩く光って見えたのだろう。

 というのも、ヒトとしての機能である感情と瞳孔の動きは連動するものだからだ。興味や好意を持つ人やモノに対しては瞳孔が大きくなり、興味のないものに対しては瞳孔が小さくなる、とよく言われる。結果、光を取り込みすぎて、かえって記憶に焼き付けることができなくなるのだとか。なるほど、「葵咲本紀」のときに記憶を消し飛ばしたことにも納得がいく。

 そして、彼の「きらめき」は、神様たちのおかげで少しずつ息を吹き返し始めていた私の心を強く動かすほど、強い輝きだったのだろう。当時はその強く揺さぶられる感情に耐えきれず、体調不良を催すなどしたこともあった。

 あの輝きを目撃した後、いろいろと他のことも経験した今、彼のファンであるのだと胸を張って言えるかと言われると……他のファンの方々に引け目のようなものもあるので、他のお二方同様、やっぱり、まだちょっと自信が無い。それでも、彼の演技を観て受けた感銘があるから、今の私が居ることは間違いない。

 彼の演技や振る舞いが直接私を救ったわけではない。私が彼の姿を観て、勝手に救われただけである。それでも、いつか、尊敬と憧れを抱く彼らに、「ありがとう」を胸を張って伝えられる私でありたいな、と思っている。

@trhnmkc
夢を見て絵を描く鳥。なりすましではなく本鳥です。嘘か本当か分からないことや、取り留めもないことばかりを書きます。