永遠のマイフェイバリットヒーロー【01:遊城十代】

ひよこひよ
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 しずかなインターネットで初めての日記を公開した際にも言ったが、私は私の「好き」を発信するために、インターネットで活動をしている。その「好き」は大抵が創作にまつわるものなのだが、極稀に、その好きが演者もしくはアーティストなど、実在する人物へ波及することもある。このことを「愛は屋烏にも及ぶ」と言うらしい。私の好きなことわざだ。

 その「愛は屋烏にも及ぶ」を知ったのは、私が遊城十代が大好きだった頃。彼は、私の青春そのものであった。

 「遊城十代」というキャラクターは、アニメ「遊☆戯☆王デュエルモンスターズGX」及び漫画「遊☆戯☆王GX」の主人公である。アニメと漫画では、性格も、彼の歩んできた歴史も、全く異なるものであるため、今回は「アニメ『遊☆戯☆王デュエルモンスターズGX(以下、「GX」)』の主人公・遊城十代」にのみ言及する。もちろん漫画版も好きなので、機会があったら日記に書くとしよう。

 遊戯王シリーズと言えば、今となっては20年以上続く人気作品というイメージを持つ人も多いのではないだろうか。当時は「遊戯王の主人公は武藤遊戯」というイメージが強く、2代目主人公の遊城十代については、よく知ったファンの間のみでしか知られていなかった。

 前作の遊戯王(正確には漫画原作と設定が一部異なる「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ」)とはガラッと変わり、GXの舞台は孤島にある「デュエル・アカデミア(日本校)」である。遊城十代はそのデュエル・アカデミアの生徒である。デュエル・アカデミアは実力や学力、家柄によって寮が分けられており、エリートの「オベリスクブルー」、秀才揃いの「ラーイエロー」、そして落ちこぼれの「オシリスレッド」の3つに分かれている。遊城十代はその中でも最下層の「オシリスレッド」に所属しながらも、高いカードゲームスキルで皆を圧倒していく。

 前作の主人公である武藤遊戯が「気弱で優しく、芯のある少年の表遊戯」と「正義感が強く、友情に厚い闇遊戯」という、どことなくダークヒーロー感のある組み合わせだったのに対し、遊城十代は「純粋にデュエルモンスターズが好きな、元気で明るい」王道主人公である。今思えば、遊城十代は最強系主人公の先駆けの1人であったのではないか、と思う。大人になった武藤遊戯から1枚のカードを託され、遊城十代の物語は始まる。

 正直、なんで遊城十代が好きだったかとか、なんで好きになったかとか、全然覚えていない。あの頃は、私が幼すぎて、彼に対して興味が無かった。そうして、数年の時を経て、私が再び彼と出会った。

 その頃の私は、思春期真っ只中だった。思春期というものは、良くも悪くも一番若く、可能性に満ち溢れた時期である。私は、この世界から消え入りたい願望でいっぱいだった。

 そんなときだ。たまたま弟が遊戯王OCGを本格的に始めたのをきっかけに、私も一緒になってGXを視聴した。画面の中で、遊城十代が楽しそうに決闘(デュエル)をする姿に、私は救いを見出したのだ。

 遊城十代は、お世辞にも良い生徒とは言えない奴だった。実技のカードゲームとしての決闘に目がなく、授業はサボるわ、早弁はするわ、あろうことに、決闘中に飯を食いだすわ……破天荒なキャラクターだった。

 だが、決闘する姿は、めちゃくちゃかっこいい。彼は「E・HERO(エレメンタルヒーロー)」というテーマデッキを使うのだが、決闘しているときの遊城十代は、特別な存在なのだ。決闘する彼の姿を見て、私はワクワクでいっぱいになったのを覚えている。

 ヒロインの兄が「豪胆で繊細、類稀なる決闘者(デュエリスト)」と、遊城十代を評するシーンがあるのだが、あの表現が妙に好きで、遊城十代を説明するとき、必ずあの言葉を引用してしまう。デュエルモンスターズのカードの精霊が見えるという特殊で繊細な感性を持ちながら、皆をあっと驚かせるような大胆な戦術で人々を魅了する。アニメなので「そりゃないだろ」とツッコみたくなる箇所も多々あるのだが、そういうところも含め、非常に魅力のあるキャラクターなのだ。

 遊城十代の決闘によって、心を動かされ、行動を変えていったキャラクターは何人も居る。しかし、遊城十代は自分で誰かを変えようとして行動したわけではない。彼は「決闘が好き」という一心で様々な相手を闘い、彼の知らないところで自然と影響を与えていっただけである、というのも個人としては好きなポイントである。

 しかし、その遊城十代の絶大な力には責任が伴う。できる限りネタバレをしたくないので詳細は伏せるが、己の能力と使命を突きつけられ、平たく言えば闇落ちするシーンがある。私としてはそのシーンを観るのがかなり辛かったのを覚えている。

 彼はそれを乗り越えて、己の使命を得ていくが、成長の過程で、大切なことを忘れてしまう。その大切なものを取り戻すために……おっと、この話はやめておこう。それこそ、重大なネタバレになってしまう。

 ところで、遊城十代の台詞の中で、一番好きなものがある。

「未来に絶望なんてするな。俺達は、まだ何にもやり遂げちゃいないじゃないか!」

 これは最終回間近の、世界を闇で覆わんとする強大なラスボスに立ち向かったときの、遊城十代の台詞である。

 あの頃の私は、この言葉に何度も救われてきた。特に受験真っ只中だった頃の私には、これが響いた。死にたくなるたびに、そうだ、私はまだ何も成し遂げては居ない、と、遊城十代の言葉を思い出して、踏みとどまっていた。絶望しそうなくらい強大な敵に、たった一人で立ち向かう彼の姿は、まさしく英雄であり、主人公(ヒーロー)であった。

 今となっては捨て焼かれてしまってもう無いが、あの頃の私のらくがき帳には、遊城十代の絵がたくさん描かれていた。彼の描き方は未だに手が覚えている。

 ――遊城十代は、私の青春時代の象徴だ。

@trhnmkc
夢を見て絵を描く鳥。なりすましではなく本鳥です。嘘か本当か分からないことや、取り留めもないことばかりを書きます。