城之内寿さんのTシャツを買った日

tropical_haka
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公開:2025/12/12

城之内寿さんというのは、漫画『ジャンケットバンク』に登場するキャラクターで、単行本の巻末プロフィールは次のようになっている。

氏名▷城之内 寿 ジョウノウチ コトブキ

誕生日▷5月1日(27歳)

星座▷牡羊座

血液型▷B型

趣味▷ネイルアート

好物▷肉

犯罪歴▷あり

特記事項▷性別に関する話題は不可

*田中一行『ジャンケットバンク 7』集英社 より

一人称は「私」で、ビジュアルはTシャツにバストアップのイラストがあしらわれているので見てもらえればと思うのだが、旧時代的な言い方をすれば「性別不詳」な感じである(「旧時代的な言い方」というのは、言うまでもなく、外見から他者が性別をジャッジすることはできないからだ)。

何より特記事項がそうであるように、性別というものから遠ざけようとされている、あるいはものすごく近くにある感じのキャラデザだ。

わたしは城之内寿さん本人もであるが、作中で描かれる同僚との気遣いのない関係がすごく好きで、「性別に関する話題」がなくともそれを築いていけることがいいなと思ったのがこの作品により深くハマったきっかけだった。

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わたしは今26歳で、新卒で就活をしていた際に「若くて健康な女性」像を期待されるのが非常に辛くなり、結果が出ないまま就活を辞めてしまった経験がある。その頃から自分の性別についてよく考えるようになり、ソシャゲで主人公を男女から選ぶシステムのものは全部挫折してるなとか、ジェンダーに関する知識や今起こっている政治と生活に関わるイシューなど、いろいろなことに目が向くようになった。その中で様々な性別の呼び方を知ったが、いまいちどれにも帰属意識は持てないまま今に至る。だから、「不可」というわけではないが、性別に関して話題を振られたとしても(今のところわたしのファッションの表現が「女性」に見えるからか幸運にも話題にされたことはないのだが)うまく答えられないし、こういう性別として接してほしいということも言えない、という「性別に関する話題は厳しい」くらいの感覚があり、城之内寿さんに親近感のようなものを感じていた。

今回Tシャツが出たので、絶対欲しい!そして何かしら自分のありかたを主張するコーディネートをしたい!と考えていた。思いついていたのは、これ👇をつけるとか。

重ね着するインナーや合わせる他のアイテムでプライドフラッグに準じたカラーリングをしようか?と考え、今の自分や城之内寿さんも内包しうる呼び方がないか調べたり…。

ただ、そもそも城之内寿さんをクィア(ネットで見れる情報でどこから引くのが安心安全なのかわからず、わたしの中での定義として、ここではジェンダーや恋愛・性愛のありかたが、割り当てられた性別と一致する人・異性に恋愛・性愛感情を抱く人以外を包摂して指します)と考えていたけれど、「性別に関する話題は不可」なシスジェンダー男性・シスジェンダー女性も、当たり前に存在しているとも考え、自分の視野が狭くなっていたことに気づいた。

もちろん、クィアという読みをすること自体はそうでない読みをすることと同様に尊重されるべきである。けれど、キャラクターのジェンダーを、特に原作で明示されていないものをジャッジすることには現実と同様暴力性があって、その責任をきちんと引き受けなければならない。当たり前のことではあるが、改めて意識した。

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そもそも、世の中がすべて「性別に関する話題が不可」になったらいいと思う。○〇だからこう接するとか、こういう言葉遣いをしているから○〇と扱うとか、そういうもの全部クソだ。わたしが自分の性別についてどこにも帰属意識を持てないまま模索中だということは書いたが、社会に流布する「女性らしさ」があまりにも後進的すぎるから、割り当てられた女性という性別から逃走したいと思っているのかもしれない。あくまで可能性のひとつであるが。

とりあえずTシャツは買った。コーディネートでどういう表現をするか、自分はそれをする責任を引き受けてできるか(大勢の人の前で?親しいオタクと会うとき?)、は届くまでにもう一度時間をかけて考えたいと思っている。どんな形であれ。