寝舟はやせ『入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください』読了しました。
いやーおもしろかった! なんかすごいほのぼのしてるけど全然ギリギリを生きている感じがすごい良かった。好きですね、この感じ。
なんかホラーとか怪談というと人類とは共存できない(祓われるか取り込まれるかみたいな)、のが前提の話が多いですけど、この話では人類(ごく一部)と怪異が共存してるんですよ。それが少しずつ不穏になったり解決(?)したりして、でも主人公は一定の温度で過ごしている。あちらにもこちらにも属せない人間なのだろうなと。思ってすごい好きじゃん……となりました。
以下ネタバレも含む雑感
※本当に雑感です。なんとなく思ったことをつらつら書いてるだけなので矛盾や誤読がある可能性がありますがそのへんは「こいつ頭悪いな?」で流してください。
簡単にあらすじを紹介すると、「ヤバい部屋ありますが住んでくれたら謝礼出します。必ずお隣さんと仲良くしてください」みたいな広告を見つけたもうすでにギリギリを生きている主人公がその部屋に住んでお隣さんと仲良く(?)のんべんだらりと生活する話です。
お隣さんはどこからどう見ても(主人公にとっても)ヤバい怪異なのですが、主人公はあまり動じることなく交流を深めており、夜や夕方あたりにベランダ越しにお隣さんの話を聞く、という形で物語は進行していきます。お隣さんはたいてい作り物の「怖い話」をしてきて、主人公に感想を求めます。また、同時進行でバイト先やら他の階の怪異やらなにやらの話が挟まれ、最終的にはちょっとだけ変わったけどほぼ現状維持のまま話は終わります。
私が特に好きだったのは、
お隣さんと主人公の距離感
主人公と母との確執っぽいもの
主人公の思考回路
家主さんの主人公への評価
の4点です。ひとつずつちょっと詳しく書きます。
1のお隣さんと主人公の距離感について。これがめちゃくちゃいいです。主人公がとんでもねえ生い立ちを持つことが少しずつ明らかになっていくのですが、その経験もあってかあまりお隣の怪異さんのことを「怖い」と思っていないんですね。「こいつ怒らせたらやべえんだろうな」くらいの認識で、家主さんから言われたことを守りつつ普通に相手と交流しており、クリスマスプレゼントに餅をもらったりしています。なんで餅。またお隣の怪異さんからみると、主人公は確か5〜6歳くらい?に見えているらしいのです(主人公は二十歳は超えています)。つまり子供がおじいちゃん(かおばあちゃん)の相手をしているような関係なんですね。まあ色々守らなくちゃいけないルールはあるのですが。そのせいかどうかわからないのですが、お隣さんと主人公の会話はかなりのんびりふわっとしたかんじになっています。そこに少し怖さもまじってはいるものの、なんとなく微笑ましさが先に立っていて読んでてウフフとなります。
2の主人公と母親との確執っぽいものについては、読めばすぐわかりますが要するに主人公の母親はどこからどうみてもヤバいいわゆる毒親というやつです。子供を産んだのは自分をしあわせにしてくれるはずだから、と本気で思っており、自分が母親をきちんとやっているのに子供は自分をしあわせにしてくれない、と怒るような親です。おそらく新興宗教にはまり、子供の学費を盗むような親です。で、主人公はその親から逃げるために例のアパートに転がり込むわけです。入居する際、主人公は自身の境遇(主に母のこと)を些細に家主に伝えており、それはもうそこ以外住めるところがないという事情もあったわけですが、それでも心の底から母を憎んでいるか、恨んでいるかといえば、そうとも言えない、という微妙な心理を持っています。あの人はああいう人だったから、という諦めにも似た感情もあります。後半ヤバいことになってる母に縋りつかれて泣かれた時に、主人公は「ほんの少しでもこの人に必要とされていることが嬉しい」という感情と共に「そう思った自分にげんなりする」という気持ちにもなっていて、その後のことは読んでもらうとして、その時にようやく母親というものと決別します。その決別のあっけなさ、しめっぽくなさ、ある意味で清々しさすら感じるそれがとてもよかったです。
3の主人公の思考回路ですが、上記2つに書いた通り、とんでもねえ生活を送ってきたからか、主人公はかなり平坦な精神をしています。そこで起こった出来事に対して大きな感情の変化はあまりありません。私はそこが一番いいなと思いました。普通ホラーであれば、怖がる主人公、というのがいると思うのですが、このお話の中では怖がる主人公はいません。「うわやべえな」とか「なんかやだな」とか「それはずるいだろ」とか考えることはあっても恐怖で動けない、とかいうことはほとんどありません。お隣さんのことも、他の怪異のことも、皆平等に「そういうもんか」と受け入れてしまっている。だから一定のテンションでそれぞれに対応できるわけです。
で、その総評として、4の家主さんの主人公への評価があります。家主といっても建物や入居者を管理しているのは弟の方で、兄の方が幽霊とか怪異とかを対策管理しています。弟の方は主人公が入居したころからよく顔を合わせているため、「入居前は本当に死にそうだったが、最近少し元気になってきた」と見ているのですが、兄の方は「あの部屋にあんなに長く住めるのはあいつ自身がちょっとおかしいからだ」といった評価をします。この「おかしい」は、一般的な人間の精神状態にない、という意味です。生い立ちもそうですが、あらゆるものに対してそこまで執着もせず、お隣さんが語る話が嘘であることを疑わず、いい具合に相手をしてやれる、その部屋に住むのにうってつけの人間であることは確かなわけです。けれども交流が深まるにつれて、普通の人間ならお隣さんの話が実は本当なのではないか?と疑い始め、本当の話だと信じてしまう方向にいってしまうと、「退居すること」ができなくなってしまいます。(だからこそヤバい部屋なのですが)。そんな人たちの後釜として入居した主人公は、現在入居最長記録を更新し、まだ居座る気でいます。「そんな奴がおかしくないわけがない」というのが家主兄の見解なわけです。
本当は人間が一番怖いよね、という終わり方はありますが、今まで語り手を担っていた主人公が一番ヤバいんだよな、という終わり方はどちらかといえばスリラー的な終わり方であると思います。最初からお隣さんやべーと思いながら読んでいると、最後にそれに付き合える主人公もやべーよ。と提示されて終わります。で、読み終えてから前に戻ると「ああ確かにこの思考回路は普通ではない」と感じるんですね。それまでするっと読めていたものが、一気に不穏さを帯びてくる。いわば知らなかった頃には戻れない現象が起こるわけです。
私はこの感覚がとても好きなので、一気に大好き本枠に躍り出ました。信用できない語り手としての主人公、という図式はありふれていますが、この本では怪異も人間も平等で、怪異をヤバいやつ扱いするのは人間の尺度でしか無いということに気付かされます。肯定も否定もせず、そのものが確かに存在する、ということが前提として話が進むので、「怪異だ!祓わなきゃ!」みたいなのがないのがいいです。
あとは個人的に、「関わらなければ大丈夫なのだから関わらないでいればいい」というスタンスを貫いている家主さんたちの考え方も好きです。勝手に住み着いたのか、そこでなにかあって定着してしまったかは分かりませんが、家主さんたちはそこの階を使用しないことで対応しています。なにがなんでも追い出す!という気持ちがないため、一種共存関係がアパートの中でできているのかなと思うと面白いです。
うーんやっぱ好きだなこの本。表紙もかわいくていいです。カクヨム出身者なのかな?カクヨムは全然知らないのですが、たしか背筋さんもカクヨムだった気がします。怖い話はやってるのかな。今度みてみたいのですが見方がよくわからんのだよな。とりあえずここまで。良い怖い話でした。みんなも読もう。
それでは。