生まれた時からずっと、私の傍らには薄手の赤ちゃん用布団がある。物心つく前から愛称で呼び(以下:彼女)、今でも彼女が側にいないと眠れないくらいには依存している。
けれど、元々薄手なうえに赤ちゃん用に作られているのもあって、十年近く前から布団としての原型を留められなくなっていた。何度か補強や修繕を施したけれど、今では布の切れ端と糸の集合体のような状態だ。
布として使える箇所がないのでリメイクもできない。ぬいぐるみやクッションの詰め物としても心許ないだろう。そろそろ彼女を供養すべきだと頭の隅でたまに考え、その度に不安で泣き出しそうになる。
自業自得ではあるけれど、私の人生を知るものは彼女しかいない。ろくに親の言うことを聞かない、問題児と呼ばれる子どもだったので、罰としてお気に入りの物はほとんど没収されるか捨てられている。
だから、不安で押し潰されそうな夜も、消えてしまいたい朝も、変わらず寄り添ってくれるのは彼女だけだった。誰にも明かせない私の弱い部分を彼女だけは知っている。今も黙って受け止めてくれている。
本当はずっと一緒にいたい。手放すことなんて考えたくない。けれどもう、彼女の寿命はとうに過ぎている。そろそろ解放してあげたい気持ちも、少しだけある。
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誰にも見せずにしまっておくつもりで書きましたが、昔あるバラエティ番組で、同じように赤ちゃん用のタオルケットを手放せず、大切に使っている人が馬鹿にされているのを見て悔しかったことを思い出したので、公開することにしました。