この世にはRTA(Real Time Attack)というものがあって、これは海外ではspeedrunとも呼ばれていますが、要は何らかのゲームを可能な限り早くクリアして、そのタイムを競うというものです。このRTAというものは、現在(2023/12/23)開催中のオンラインイベントRTA in Japanが広く知られていることもあり、多くの人が何らかの形で見たことがあると思われる、有名な競技であると思います。私はもともとRTAのイベントや配信を観るのが好きだったのですが、RTA走者というのは特別な存在であるという意識から、自分でやってみようという発想は長いことありませんでした。しかし今年の始めにアメリカで行われたGDQ(Games Done Quick、世界最大規模のRTAイベント)を観て妙に感動し、自分でもRTAをやってみたら面白いのではないかという考えを抱き、複数のゲームの候補を検討した末に、その時点で一番自分の好きなゲームだったエルデンリングのRTAをやってみようということになりました。「これが全ての過ちの始まりであった」などといった勢いの強い表現を使うつもりはありませんが、それでもなんとなく視聴したGDQでメトロイドドレッドを走っているおじいさんに深く感銘を受けていなければ、エルデンリングRTAという、今年の余暇ほとんどを捧げるほどにハマった趣味を見つけることはなかったということを考えると、人生(デカい主語)というものは小さなきっかけによって大きく変わってしまうものであるなあと思わずにはいられないのです。
結果としては「そこそこ」の成果が出せました。主に取り組んだのはAny%Glitchlessという、要はバグを使わずにゲームをなるべく早くクリアするというカテゴリなのですが、57分44秒という、現時点では世界8位、国内では2位という記録を出すことができました。また最近はAny%というバグを使ってもよいカテゴリの練習をしばらくしていて、この記事(?)を執筆している時点ではspeedrun.com(RTAのリーダーボードがあるサイト)に申請中ですが、20分55秒という、承認されれば7位の記録を出すことができました。(ちなみに見た目ではAny%のほうが順位が上ですが、競技人口や、自分自身の思い入れなどの要素から、Glitchlessの順位のほうがはるかに意味があると思っています。)本当にトップというほどではないし、しかし無駄に卑下するのもよくない程度の、「そこそこ」の成果だと思います。とはいえRTAを始めた当初はここまでやりこむ予定は一切ありませんでした。先に記したRTAを始めた理由もあり、当初は自分自身でRTAをやってみること自体に重きを置いていて、具体的はGlitchlessで70分を切れたらあー楽しかったということで終わりにしようと思っていたのですが、「自己ベを出す→いったん満足する→自分の弱さに耐えられなくなる」のサイクルを繰り返していくうちに、もう後戻りできない程度にのめり込んでいってしまいました。自分でも何故こうなってしまったか分からないのですが、何らかの意味でRTAが性分に合っていたんだと思います。
RTAはとにかく楽しいです。何となく他人がプレイしているのを見ているだけだと分かりませんが、RTAで使われる戦略やトリックの裏には多くのプレーヤーの知識や検証の積み重ねがあります。エルデンリングの場合にはいわゆるソウルゲーに関する情報を交換するDiscordのサーバーがあるのですが、そこで共有される情報を眺めているだけでもカジュアルに遊んでいるだけでは見えないゲームの側面を知ることができるので楽しいです。自分自身で走る場合には、既存の走者によるプレイを再現できるように、自分の環境で調査や検証重ねていくのですが、これもとても楽しいです。タイマーを付けながら本走をやるのは、、、つらいことが多いです。世の多くのRTAがそうであるように、RTAに費やす時間の半分、もしくはそれ以上はため息をつきながら序盤でリセットをする作業に費やされます。ただ自己ベが出そうなペースになってきたときの緊張感は、カジュアルにゲームを遊んでいては味わえないですし、実際に自己ベが出ると、これまでのゲーミング人生では味わったことのないくらいの喜びを味わうことができます。今のGlitchlessの自己べが出たときはちょっと泣きました。それくらい最高なんです。
個人的にRTAのいいところは、プレーヤーのパフォーマンスがタイムという一つの分かりやすい指標で評価されるところだと思っています。「ナンバーワンよりオンリーワン」という言葉もありますが、RTAではとにかく早いほうが正義です。ここは意見が分かれるところかもしれませんが、僕自身はこれが面白いところだと思っています。例えば自分のタイムが世界トップの記録よりはるかに劣っているとしましょう。この場合には、自分のチャートやプレイングに難からの意味で至らない点、要改善のポイントがあるということが、タイムの差という形で冷酷なまでに明らかに表れています。この冷酷な事実に尻を叩かれたプレイヤーは自身の至らない点を明らかにし、それを踏まえてまた練習を行うことになるのですが、その過程をちゃんと踏むことによってタイムも実際に改善していきます。僕自身はこの過程を繰り返していくことで、自分が強くなっていくような気分が味わえるのがとても楽しいんですよね。この自分の弱さを明らかな形で突きつけられるというのは、少なくとも自分がこれまで中途半端に手を出してきた趣味では経験できなかったことなので、RTAの経験がまた他の活動に良い影響をもたらすといいなあ、などと考えています。(ここまで偉そうに御託を並べてきましたが、結局そこそこの記録しか出せていないので、まだ自分は弱いということになります。)
また実際にRTAをやってみて思ったのは、世界のトップに立つ人は本当にすごい、ということです。何がすごいって、努力の質と量がすごいし、まずマインドセットが全然違う。「自分は世界記録を出す」という目標を現実的なものとして掲げて、そのために高いプレイスキルが求められるチャートをしっかり練習して、莫大な時間をかけてそれを実行する、これは多くの人にはできないことです。例えばエルデンリングのGlitchlessの場合には、ある程度以上のレベルになると、難しいスキップ技を導入し、またボス戦でよりリスキーな戦略を導入することで、タイムが縮まるゲームになってくるのですが、僕のような凡人の場合にはそのタイムを切り詰める過程のある時点で妥協をしてしまうんですよね。具体的な例として、世界一のチャートには、メイン武器の強化素材を入手する時間を短縮するために、メイン武器の強化を最低限(自分視点から見ると最低限以下)にして中盤の王都ローデイルまで攻略するというものがあるのですが、これを実行するためには滅茶苦茶複雑で難易度の高いボス戦の戦略を頭に入れなくてはなりません。そしてこのチャートを導入することにより短縮できる時間は10秒+αと言われています。僕のような凡人はこの事実を前にこの攻めチャートの導入を諦めるのですが、現在の世界1位と2位はこのチャートを当然のように導入し、とんでもないタイムをたたき出しています。(ちなみに現在の世界2位はエルデンリングが発売されてからRTAを始めたみたいです。すごすぎる。)このあたりの精神性が全然違うんですよね。
話にまとまりがなくなってきたので、最近のイベントの話をします。先日幸運なことに「ガチ武器禁止RTA大会」というエルデンリングRTAのイベントがありました。これは公式のルールでよく用いられている、いわゆるガチ武器の使用を禁止し、走者がオリジナルのチャートを作って参戦するというものなのですが、自分も走者として参加する機会をもらうことができました。自分の番では回線トラブルが生じたり、人生で一度も負けたことがないボスに負けるなど、とにかく散々な走りになってしまったのですが、それでも終わってみるとめちゃくちゃ楽しかったという気持ちがあります。大会の一年前の時点で自分はこうしたイベントは完全に見る側だったのですが、実際にイベントに走者として参加することによって、本番一発勝負の緊張感を味わうことができ、本当に貴重な体験ができました。(ちなみに大会の参加は募集締め切り直前まで迷っていったのですが、かの岡本太郎の言葉を思い出し参加に踏み切りました。サンキュー岡本太郎。)繰り返しになりますが、本当にめっちゃ楽しかったです。やっててよかったRTA。
エルデンリングRTAについて書き散らすのはここまでにさせていただきます。(そもそも話が不要に抽象的で、エルデンリング自体の話をほとんどしていないですね。)こんな駄文を端から端まで読む人はネットの海広しと言えど一人もいないという確信がありますが、それでもエルデンリングRTA、もしくはRTA自体の楽しい感じが1ミリでも伝われば幸いです。