1月11日。土曜日。ZINEフェス東京。
朝、職場に手帳を忘れたことに気づき、迷った末に取りにいくことに。なくてもギリギリなんとかなるけれど、ないと胸がすーすーする。誰にも気づかれないように出勤日よりも一本早い電車に乗ったのに、先輩が先に着いていて「え、もしかして間違えて出勤したの?」と笑っていた。コートのなかのつるるTシャツが見えないよう、首に巻いたマフラーをさりげなく広げる。
無事に手帳を回収し、自宅で一息。おむすびを結ぼうと思い立ちとき子さんにLINEしたら、ちょうど富士山あたりを通過中だったそう。綺麗な富士山の写真が送られてくる。
浅草へ。日本橋から銀座線に乗っていたら、車内のかなりの割合が観光客の外国人だった。上野からさらに乗ってくる。みんな雷門に行くのだろうか。改札でとき子さんと待ち合わせて台東館に向かう。迷わず向かうことに集中していたら、とき子さんがスカイツリーを見つけて歓声を上げた。スカイツリーが東京名物のひとつになってからそこそこ年月が経っているはずなのに、私はまだスカイツリーを名物としてあまり受け入れられていない。東京タワーも見に行ったことはないのだけれど。塔って……塔じゃん、と思ってしまう。エッフェル塔は見に行ったくせに。ピサの斜塔も見に行きたいくせに。
初出店のZINEフェス東京は、文フリとは雰囲気がかなり違った。活字よりも、ポストカードや写真集、画集、ビーズや絵本、原画、漫画等のビジュアル重視の商品を売っているブースが多い印象。本も厚いものよりも、薄くてA5判以上でコンセプトがはっきりしているものが多いように見えた。
Webカタログも見本誌コーナーもないから、お客さんは気になったブースで試し読みをしたり、商品の説明を聞いて買うかどうかを決める。買いものに行ったとき子さんが、文フリのとき以上にたくさんの本を抱えて帰ってきて笑った。ビジュアル系に弱い。反対に私は、もとから文章を知っている人の本しか買えなかった。最近自覚したけれど、たぶん私は文章の好みが激しいうえに、フォントやレイアウトの好みも激しい。たとえば体言止めが多すぎる本、文章にひねりがない(or薄い)本、笑いどころを説明することなく一人で笑ってる本(「私、普段は銀行で働いてるOLです(笑)。有給でハワイに行くのが趣味です(笑)。好きな食べものはドーナツです(笑)」みたいな、なんで笑ってるのかわからない文章にのけぞったことがある)、全文太めのゴシック体の小説やエッセイ、改行が多すぎる本、一行空きが多すぎる本は、おおぅ……と戻してしまう。なんて狭量。Webカタログ等で予習を極めることで偶然の出合いが減ってしまうことを憂いながらも、私自身は可能なかぎり予習がしたい派なのだ。
私たちのお隣はnote友だちのよさくさん。今回ブースに並べていたのは、新刊の喫茶店に通い続けた日記本『喫茶店常連日記』と、既刊の福島と北海道の転勤エッセイ『はじめての北国暮らしは掘りごたつ付きワンルーム』。心地よくするする読める文章力に加えて、本としてまとめるときのテーマ設定がうますぎる。実際、「同じ喫茶店に通い続けた日記です」という具体的なフレーズに、通りすがりの人がぐいぐい引き寄せられている。「へぇ、おもしろそう」と見本誌をめくっているお客さんに「おもしろいですよ」となぜかドヤ顔で勧めてしまう。隣接特権、「横から推す」。
初めて自分の本を見た人に「ほしい!」と思ってもらえる仕掛けを、これからはちゃんと考えなきゃいけないなと思う。これまでの文フリでは、初出店以降はすでに私やとき子さんのことを知ってくれている人やWebカタログで予習してくれた人が大半だったから、つい初見の人にはたらきかける工夫がおろそかになっていた。小さく反省しながら、立ち止まってくれた人に本の内容を紹介する。幸い、当日を迎える前に買いたい本がある程度決まっている文フリとは違って、ZINEフェスのお客さんは「どんな本に出合えるかな」という状態。こちらの話をちゃんと聞いてくれる人が多いから、「この人に刺さるのはどの本だろう」と反応を窺いながら一冊ずつラフな紹介を投げかけてみる。
文フリ大阪のときに新刊『そばぼうろの夫婦』と日本自費出版文化賞で入選した『羽ばたく本棚』が開始2時間で売り切れ、残り時間を持て余してしまったトラウマで、今回その2冊を多めに持っていったのだけれど、蓋を開けたら私の本で一番売れたのは『春夏秋冬、ビール日和』だった。思いきって3刷してよかった。とき子さんの『なけなしのたね』も完売。ファーストエッセイ集、強い。そんなわけで今回売れた部数は72部、売上は42,900円だった。東京や大阪の文フリに比べると少なく感じるけれど、悔しさはほとんどない。机も通路も広くて、初めましてのお客さんとも「いつもお世話になってます」のお客さんともゆったり話せる、そんな環境が心地よかった。豆千さんのお店のチラシも、たくさん受け取ってもらえた。ビール日和が売り切れてからは「ビールが好きそうな顔の人」にじゃんじゃん渡してしまったけれど、大丈夫だろうか。
noterさんや文フリでいつも会える人たち、文フリで出会った人のご縁で繋がった人たちもきてくれて、とても嬉しかった。祖母の記事や母の日記を読んで心を寄せてくれる方が何人もいて、本当にありがたい。アップするときには暗い話でごめんー!と思っていたのだけれど、「病院に対する葛藤がよかった」「大変だなとは思いつつ、読み物としておもしろく読んでる」などと言ってもらえてホッとする。内容としては軽いものではないものも、読んでよかったと思ってもらえるものを書きたい2025年。
残念ながら、体調不良で会えなかった方も何名か。いくらなんでも流行りすぎだインフルエンザ。どうかお大事にしてほしい。
ZINEフェス終了後はカラオケまねきねこへ行き羽ばたくチームで打ち上げ。LINEでビデオ通話を繋げて、乾杯したりお揃いのつるときTシャツを着てスクリーンショットを撮ったり売り上げ数えたりしゃべり倒したり。とき子さんのお誕生日が近いので、みんなでお祝い。今年もどうか健やかに、いっぱい一緒に遊んでほしい。
その後とき子さんと別の打ち上げに合流。夜のデニーズでドリンクバーを飲みながら苦労人たちのおもしろすぎる苦労の数々を前のめりで聴く。その人たちは親身な聞き上手でもあり、顔の広い人なので、噂話の吹き溜まりみたいになっている。もはや話芸の域の苦労エピソードにゲラゲラ笑っていたら、終電。
すぐに寝ようと思っていたのに、興奮してしゃべっていたため3時就寝。
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1月12日。日曜日。某所で宴。
朝、玄米と味噌汁、ゆで卵と厚揚げのぬか漬けでとき子さんと朝ごはん。年末からメンテナンス期間に入っていたぬか床がちゃんとおいしくて安心する。捨てられていなければ実家にいるはずの市販のぬか床は、いまどんな味になったのだろうか。
気心のしれた人たちとおいしいお酒とおいしいご飯を囲んでたくさん話して、大満足にもほどがある時間を過ごす。もともと朗らかな人たちにアルコールが染み込んで、さらに朗らかさが増していた。昨日も少しお話しできた方も、お久しぶりの方も、一年ぶりの方も。
「超人の倒れた家で」を読んでくれている方が、ミゲルにも父にもシンパシーを感じていると言ってくれた。父!普段やっていないことをやらされてオロオロする感じに共感すると言われて、もう少し父に優しくしようと思う。ミゲルはめちゃめちゃ応援されていた。頑張れ。
素の気持ちを綴れる場があること、それを受け止めてくれる人がいることのありがたみを噛みしめる。「母親が入院して、自閉症の弟がいる」。字面的には大変そうに見えても、実際に毎日を書きだしてみるとけっこう気を抜いている時間も多いし、笑えることもたくさんある。それをそのまま書くことは、自分自身の気持ちの整理にもなるし、まとまりのない状態でも読んでくれる人がいることに救われたりもする。そういえばミゲルから、母が一般病棟に移ったとLINEがきていた。みるみる回復している、さすが。
11時に集合して、気づけば18時を回っていた。積もる話はまだまだあるけれど、次の機会もきっとある。高速バス乗り場にとき子さんを見送って電車に乗ると、夫からLINEが来ていた。夫の弟たちと近所の居酒屋で飲んでいるという。義弟たちと飲むときはたいてい恋バナか家族の話なので「最近、どこかデート行った?」と聞いたら、夫が「おま、いま地雷踏み抜いたぞ!」と満面の笑みで身体をゆすった。先にLINEで教えておいてくれてもいいじゃん。