1月3日。金曜日。年末年始休暇6日目。
うまおの入居用洗剤と母の紙オムツを買いに朝イチでクリエイトへ。洗剤容器とオムツの袋にそれぞれの名前を書く。ここ数週間、母の名前とうまおの名前を書きすぎて、旧姓に引っ張られている感じがする。もし私が地元で就職をしていたり、独身だったりしたらこの生活がしばらく続くのだろう。パラレルワールドの自分の暮らしを暮らしているような感覚。
今日は駅まで来てくれた従姉と落ち合い、うまおを連れて大きな公園へ。毎日気張っているミゲルと父に少し休んでもらったり、足りないものの買い出しに行く時間を作るためだ。公園に着いた途端、うまおは勢いよく走り出した。まず自販機でコーヒーを買い、一気に飲み干す。アスレチックを勧めると、ローラーコースターに並んだ。前を滑る小さい子と相当に距離を空けて滑らせたのに、両手でぶいぶい加速しやがり終着点では前の子のすぐ後ろにいた。急に追い上げてくる20代男性。ごめん前の子、怖かったよね。
小さい子連れのファミリーが多いので、人の少ない筋トレコーナーへ向かう。従姉と二人で「うまちゃん、これは?」と目についた筋トレ遊具を手当たり次第勧める。懸垂や腹筋、重りの持ち上げなど、手本を見せると一応やってくれる。ハムスターの回し車みたいな遊具でさえ、見よう見まねでやってくれた。みるみる速度が上がっていき、怖がって目をまん丸にして飛び降りる。うまおが特に気に入ったのは、肩甲骨を回すための取っ手つきルーレット的な遊具と、回る台座の上で腰をひねる遊具だった。回る台座の遊具は本当は上半身だけひねるものなのだけど、うまおが嬉しそうに全身でぐるぐる回っていたのがからくり時計の人形じみていておもしろかったので、その動画をグループLINEに送った。酔わないのかな。もしも私と二人きりで遊びに来ていたらたぶんもっと早く帰りたがるだろうに、従姉が「うまちゃんやるなぁ!次、あれやってみせてよ!」とうまく勧めてくれるので、ひと通りの遊具で遊んでくれた。見よ、これが従姉パワーだ。
公園はだだっ広いので、うまおがいくら奇声を上げても飛び跳ねても誰からも何も言われない。こりゃいい場所だとホクホクしていたら、機嫌よく縦横無尽に爆走していたうまおは、唐突に、飽きた。「う!」と指さす方向は駐車場。あまりにも爆速で遊びすぎて、まだ公園に来てから一時間しか経っていない。「お昼食べようか」と反対側のレストランを指すと、頷いて走っていった。公園に着いてからの移動が、ほぼ常に疾走。体力あり余りすぎだろう。
メニューを見せて「どれがいい?」と聞くと、指さしたのはスペシャルな定食。私は唐揚げ定食にしようっと、と唐揚げ定食を指すと、ハッと目を見開いて唐揚げを指さす。唐揚げいいよね。天丼を頼んだ従姉としゃべりながら店内を見回すと、三が日だからかお客さんは私たちのほかに2組だけだった。テンションが上がったうまおが店内のピアノBGMに合わせてとびきりの笑顔で旋回し始めたり、「きょぉぉ〜〜〜」と興奮しかけたりするのでヒヤヒヤしたが、こちらを気にする人がいなくてホッとする。
うまおは唐揚げ定食がくるなり漬物を食べ、米を食べ、味噌汁を啜った。フランス人ってそういうふうに一品ずつ食べるらしいよ、と従姉が笑う。うまおが唐揚げに手を付けたのは、最後だった。最近何度か熱いものを食べてびっくりして口から出す、ということをやっていたから彼なりに学んだのかもしれない。唐揚げを食べ終えると、「ごちそうさま」と言いたげにお盆を押した。皿にはけっこうな量のキャベツがもりっと残されている。「ええ、キャベツは?」と聞くと、いけね、みたいな顔をした。従姉がソースをかけてあげると、しぶしぶという様子でキャベツをほおばり始め、最終的にはほぼ完食。デザートも頼んじゃおうよ!と盛り上がり再びメニューを見せると、迷わずぜんざいを指さした。ぜんざいね?と確認すると、なぜかチョコとソフトクリームがけのドーナツに指先を変えた。えっと、ちゃんと写真見てる?何が写ってるか、把握できてる?
食事を終えたあと、滞在時間を少しでも引き延ばそうと日本庭園に出た。池には鯉が泳ぎ、私たちの足元にしばらく溜まったあと、「ちっ、餌くれるわけじゃねぇのかよ」的な様子で散っていく。東屋に座った従姉が急に「キモいキモいキモい!!鳩いんじゃん!」と屋根を指さした。見上げるとふくふくと太った鳩が2羽、屋根と梁の間に挟まっている。
たしかに不意打ちでびっくりはしたけど、鳩って別にキモくはなくない?
いやキモいよ!なんかいま目が合った!ほら、こっち見てる!やばいやばいやばい!
そ、そんなに……?
従姉が鳩に怯えている間にミゲルが公園に到着。14時にミゲルと従姉が面会に行き、その間に私は洗濯物を取り込む。いまさらだけど年末年始、ほぼ毎日晴れていてありがたいな。うちは日当たりがいいので、外に出せさえすればかなり早く洗濯物がカラッと乾く。
一度の面会は2名までなので、時間をずらして面会へ。なんと母は、百均の磁気ボードで会話ができるようになっていた!以前よりも格段に話が早い。手元を見ずに読みやすい字が書けるのすごい。今日の話題の中心はうまおの爪を切るときの注意点と、年始の仕事の持ちもの。かなり揃えたつもりだったけれど、まだ足りないものがいくつかあるらしい。
「わたしの くつ」と書かれたので「いつも履いてる赤いスニーカーが置いてあるね」とベッド脇を見て答えると「ボロぐつ やだ」と言う。家にある新品の靴と取り換えてほしいと頼まれる。わかった、わかった。
まだ管に繋がれているもののリハビリが始まったらしく、今日はベッドに10分座ったという。よかったね、頑張ってるね。
さっき、あーさちゃん(従姉)とミゲル来たでしょう。
「あーさ えらそう」
「みげるに おくれって いってた」
従姉が最寄り駅まで車で送れとミゲルに命じたらしい。もとから送っていく予定だったはずではあるんだけど。
「みげる センス ない」
!?
突然の悪口。なんのこと?服?靴?
「りょうほう」
え、ええ……?急にディスるじゃん。しかもこんなに献身的に家や母のために奔走してる息子を。
家に帰ってミゲルに伝えると、「私たちが行ったときには『あーさ えらそう るるさん にぶい』って言ってましたね」と言う。
三人揃えば、
「あーさ(従姉) えらそう
るるさん にぶい
みげる センス ない」だ。
何この三銃士。何この微妙にいやな感じ。
従姉のミゲルへの態度が大きめなのはいつものことだし、私が鈍くて母にもどかしい顔をさせたのはつい最近なんだけど……「みげる センス ない」!!!かわいそう!!!
仕事が休みになってからはずっとジャージにサンダルで面会に行っていたからだろうか。うまおの長靴を買いにカインズに向かうときも「私はどうやらセンスがないらしいので、るるちゃん選んでくれますか」と根に持ったふうに肩を竦めるミゲル。
その道中聞いたところによると、従姉を駅まで送る途中、愛車の窓に鳥の糞を落とされたそうだ。散々すぎる。