野獣死すべし 感想

tukitachi811
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 劇場で『甦る金狼』⇒『人間の証明』と松田優作主演作品を見てとりあえず個人的には今回で一区切り。『野獣死すべし』を最初観始めて思ったのはまず「重たい」ということだったかもしれない。今ここで言いたいのは内容がシリアスであるという意味での「重たい」ではなくて映画を観ているときに感じる重さ。全てが静かで重々しいということだ。決して画面に惹きこまれないといったわけではなく、むしろその静けさによって自分の身心が作品に取り込まれる心地すらする。冒頭の雨の場面などはそれが特に顕著であり、劇場内にザーザーと雨の音のみが反響しているなかで静かな男たちの戦いを息を呑んで見つめていた。

でも、まさかまた松田優作が人を殺してるところから始まるとは思わなかったんですけれども……。同じ殺人者でも部屋は朝倉より伊達の方が全然まともだったけど。

とはいえ、『甦る金狼』における朝倉の殺人とはかなり印象が異なる。冒頭の刑事殺害、それに続くマフィア殺害の場面での伊達の戦い方は何と言ったら良いのかスマートさの欠片がなくぶるぶる手は震え精神状態は安定していないようにみえる。それにそんなに肉弾戦が超強いというようにも感じられない。銃を撃つのは下手ではないようであるが敵が確実に死ぬまで(死んだことを確認するように)念入りに撃つから割と臆病というか神経質めなんだろうかと思った。後々の独白を考えたら戦場の時と同じで自分が殺されるかもしれぬという興奮の中で獲物を殺したいのかしらなどと考えたが、普通に元射撃部?の戦場カメラマンという経歴的に近接戦闘自体は別に強くないからあんな感じなのか…。殺人に感情が振り乱されている?このあたりはもう一度見返して考えたいところ。また後で言及するけれど伊達における殺しはあくまで自分が成り上がる手段の一つでしかなさそうだった朝倉と較べると結構正反対だよね。

伊達の一挙一動が本当に重々しくて圧が凄い。目はずっと死んでるし…。冒頭で朝倉君は一応表向きの姿が見えてたのに対してダテちゃんは社会とのつながりが全く見えなくて怖いな~そもそもどういう立場の人間なんだろう、何が目的なんだ?って思いながら観てたけど金が目的ではあるんだ……??一度目、ジュエルのおじさん騙した作戦が失敗した時に動揺一つしないから別の目的があるのかなと思ったけど普通に仲間が一人ほしいって打ち込んでたからあ、リベンジするつもりあったんだってなった。

ダテちゃん、洗脳の才能がありすぎる。自分が優位に立った状態で大事な人を殺させてもう後戻りできないように居場所を自分以外念入りに捨てさせて。自ら選択させているように見せているのがより悪質。伊達が真田に向かって輪廻転生から外れたんだよ!みたいなことを言うのはニーチェの永劫回帰から引っ張ってきているんだとは思うけれど、自分たちこそが超人だと捉える方向性で言っているのかは謎。あそこの雨の中の運命を決定づける時の演出凄く好きだけど最悪フラメンコシーン二回目なんですけれど!!!彼女から見えないことで彼が覚悟を決める時間も照準を構えて狙う時間もできているのも良いし撃つその瞬間まで彼女が力強いダンスを踊り生命に溢れていたのがありありと見えてたのだろうというのも良い。

銀行で人を殺すことに躊躇がなくなった野獣が大暴れしてるとこ、なんか手綱を握れてるんだか握れてないんだかって感じでよかった。あと令子ちゃんだったか、すっごく強い。精神的にすごくつよい。なんか全然怯え惑ってないし名前呼んで近づいて来ちゃうし。彼が常人とは何かが違うことを予感してたのか?客の中でたった一人彼女だけを殺した理由は本人も特に答えを持ち合わせて(出そうとする気が)なさそう。

あとさ~~やっぱりあの柏木刑事さんが凄くかなり好きだ。カッコいいしちょっと遊び心があるけど職務に対して真面目で正義感の強い警察のおじさんってそりゃあ好きだよ。カッコいいもの。柏木刑事が脅迫されてるとこダテちゃんも楽しそうだったけどわかる。あの鏡にしか映らない相棒もよかったな。カンがよすぎるというのも考え物だよね……。刑事さんが眠りについてからのダテちゃん、もう目がぎっらぎらで生き生きして冒頭の男とは別人過ぎる。もうあの戦場に心がいっちまってない?ここまでくると画面が転換したり暗転したりすると誰かが死体になってそうだな~という予測が自分の中でできてきてるな…。

洞窟内での場面、このあたりからもうダテちゃんのノリが戦場になってしまっていてそりゃあセックスしていたカップルは怖かったろうなと思った。もう伊達から兵士認定を受け野獣になってしまった真田は何を思っていたかわからないけれど。伊達の興奮について正確なところは正直分かっているとは言い難いが、幼い少女が犯されている場面に遭遇して「その少女から離れろ!!」って叫ぶまっとうな感覚があるからこそ同時にその罪の背徳感でエクスタシーするんかなと思った。狂気と正気の狭間が見えなくて怖い。

ふざけたこと言うと途中からもう刑事さんとダテちゃんと真田くんの欺瞞ラブ逃避行ロマンスが見たいです。おれは。って思いながら見てたから最後柏木エンドだったのかなり嬉しい。実はというとコンサートホールから伊達以外の人がいなくなった瞬間、あーこれ正気喪失エンドか……みたいなテンションになってたから…。現実でした。

総括としては映画館の音響で見るべき映画で最高だったな~~!!といったところ。今回特に何も予習していかなかったけれど仮にあらすじを先に読んでいたところであの演出、演技の迫力の数々は映像で見なければ全く伝わらないし、文字情報で既知であったとしてもそれによって魅力が欠けるところがない。観れる機会があってよかったです。

(あまりにも良かったので衝動的にBlu-rayディスクを買いました)

2024年4月3日

@tukitachi811
なんでもない文章。週刊少年ジャンプを購読しているオタク。