予告の時点でかなり濃厚な性的接触描写がありそうで映画館で鑑賞するか否か迷っていたのだが、結局出演:成田三樹夫の文字に惹かれて鑑賞。かなり自分の好みの映画だった。
何がいいかってまず音楽が良い。テーマ曲も良いし敵を殺害してる場面においても展開に合わせて細かく変わる音楽が良い意味で楽しさや明るさを失わせない。個人的には朝倉が会社の秘密を彼女にタレこんでもらう時に挿入されるフラメンコが特に印象的で好きだけれどスペイン村行く直前に見なくて良かったなとはちょっと思った。カルメン劇場でフラメンコ見た時にこのシーンが脳裏によぎってたと思うから。朝倉くんさぁ…。
そう、朝倉哲也。鑑賞し終わった後はずっとコイツのことを考えていた。作品の主人公であり、クザンきっかけの松田優作作品履修としてはある意味主目的とでも言えるのだけれどコイツが本当に魅力的で良かった。
金を手に入れるためなら手段は問わない正真正銘怖くて悪い男で作中でもこんな男に惚れた女は不幸になると言われているけど、松田優作さんの演技ゆえかその恐ろしささえも魅力に変えてしまう力がある。女性をたぶらかしてる時の朝倉という男も女性に上手く取り入るための意図的なキャラ作りだとしても、真面目だけどちょっと抜けててお茶目で面白いやつでしかもカッコいいから惚れるのもわ、わかる……になる嫌さがあるしね。爆速でお持ち帰りしてるし婚約してるし……。
余談ですが自分の履修の順番が探偵物語の工藤ちゃんからの朝倉だったので冒頭の暴行シーンの時点でヒエ~ってなりました。怖いよ。でも、序盤のヤクザ脅す時の「駄目」の言い方良すぎだな。余りにもカッコいい。あとボクシングしてたからファイターなのかなと思ったらファイターかつアサシンでアーチャーだしマジで強いな……。本当に強い。いや本当に。どうやったらこの男死ぬんですか?
朝倉哲也という男の話。原作がハードボイルド小説というのもあって映画内で朝倉哲也の心情が明確に語られることはほぼ無かったと思うのだけれど、それがずっと朝倉と我々に距離を齎していて良いなと思った。あの男のことを何か分かったようでずっと分からないまま、他者としての領域を大きく残す。だからこそ、外から見ていただけの自分には朝倉の心情や動機は分からないとこが全然あるんだけれど、朝倉自身の望みに王手をかけて手に入れた金で買ったイカした車でかっ飛ばしてる時の顔が本当に楽しそうだったから良かったね~って気分であの辺りは見てました。理解できないけれど本当に楽しそうで。
よくわからないけどそんなにも金が欲しいのか朝倉……。そこまで緻密に地道に努力して金が欲しいのか朝倉……。京子さんのことは散々利用したし操ったし刺されたことが分かった瞬間首を絞めることができてしまうけれど外国に飛ぶ時に二人分のチケット買ってくるのか朝倉。
あの飛行機のチケット凄いですよね…。京子さんが朝倉のこと刺してまあお前はそんなことした相手をそりゃ生かしてはおかないだろうよと思った直後にあの二枚のチケットが出てきて、見ていた人間の思考が止まる。京子さんが恐らく考えていたようにただ利用しただけの相手にすぎないのかと思ってたのに。京子さんに対する何らかの何かがあったのか?お前に。でも、てっきりあの場所で二人京子さんと一緒に死ぬのかなぁと思ってたら全然死ななくてさらに驚いた。ぐっさり刺されて死なないのかよ。心身ともにしぶとすぎる。冒頭からずっと朝倉哲也は碌な結末を迎えないだろうな……と思いながら観ていたし十中八九女に刺されると思っていたけれど……。
朝倉哲也以外の話だとやっぱ成田三樹夫が全編通してかわいくて良かったね。割と本人がクールめな顔立ちと雰囲気だからよりエモーショナルでコミカルな言動をすると際立つ。「だって金子がァ!!」って金子に罪を擦り付けるとこで劇場に笑いが起こってたのが良かった。