2025/3/17 第2回 台湾支部という職場の色々

ツツリ/壱真
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公開:2025/3/17

第2回です!今回は職場関連の質問をいただきました。

最近は業種と関わらず、台湾で拠点を設置する日本会社が数年前と比べてかなり増えてきた印象がありますね、ゲーム会社はいまだに少数派っぽいですが…

私が持っているのはそんな少数派である日本ゲーム会社の台湾スタジオ、という極めて狭い範囲内のノウハウですが、何かの役に立てれば幸いです。

ではいきましょう〜!今回の質問はこちらです↓


 ありがたいことに当時私の担当プロジェクトの日本側のスタッフ達は非常に気さくで親切な方達だったので、これといった困ったことは特になかったです。非常に幸運でした。なので他の同僚やチームメンバーから聞いた話や、翻訳チーム絡みの業務で体感したことを軽く整理してみようと思います。でもこれはおそらく実際にやり取りをする相手の日本語への理解度に依存する内容なので、ここに書いた内容はあくまでツツリ個人の経験です!

(前にいた会社、台湾スタジオはトップダウン式現場を徹底しすぎて、ごく一部の管理職を除いて日本語通じない率と初心者率が圧倒的に高かったのでそれ基準で書いてしまう…!)

発生率が比較的に高いケースをいくつか挙げますね。

・作業内容を伝わる文章の婉曲表現はできるだけ最小限に

例えば:

「裾あたりの作画は他の箇所と比べるとちょっと繊細さが……枠線の太さは控えめに、色も黒くない方向に変更して欲しい。レースの部分は線が細すぎて拡大すると少し荒っぽく見えるので、もうちょっと太くした方がいいかも」

この文章は、実は日本語初心者が完全理解するのに難関がいくつあります。

・ちょっと繊細さが……→話が終わってないよ?繊細感がどうしたの?

・枠線の太さは控えめに→控えめ、はなに?

・レースの部分は線が細すぎて→え?前の文章は線が太すぎと言ってなかった?

・荒っぽく見える→荒っぽい、はどんな感じ?

と、相手が困惑する可能性はなくはないんです。

即席の例ではあるんですが、「線」に対して「控えめ」と「荒っぽい」などの言葉、意外と伝わりにくいかもしれません。特に相手の使える日本語の単語が少ない場合は、「想像する余地」のある表現を処理するのにちょっと難しいかもしれません。

さっきの文章を想像の余地を無くして、よりストレートな言い方になるよう少し調整すると:

「裾あたりの線をもっと細くして、線の色も黒以外にしてください。レース部分の線は細すぎて拡大するとギザギザになってしまうので、こちらはもう少し線を太くしてください」

になりますね。

日本語の言語感覚をある程度把握できれば、婉曲表現は相手が気を遣って言葉を柔らかくしようとしてるって気づくかもしれませんが、そうでない場合は文章が長くなるとたまーに真意が伝わらない、あるいは逆の意味として捉えてしまう人もいます。しかも中国語と違って、日本語はセンテンスごとに主語が出てくると限りないので、この状況を生じた原因の一つなのかもしれません。

・オノマトぺはなるべく少なめ、あるいは避けましょう

何気に難しい問題です…!擬音語、擬態語はその言語が所属する文化と深い繋がりがあって、完全に使わないのは難しいし、非母語話者の場合は調べたところイマイチ伝わらない場合もあります。

オノマトぺが入ってる文章を送る際に画像、動画などのサンプルも添付して、できるだけ自分が想像したイメージを具体的な形で表現するのがおすすめです。

余談ですが、商品のパッケージなどで頻繁に出てくる「キラキラ」、「ふわふわ」などのオノマトぺの認知度は高くて、日本語初心者でもワンチャン通じるかもしれません。「ぶちぶち」、「メラメラ」、「もりもり」など状態や動きを形容する系は比較的に認知度が低い。動きや「動」のある状態を伝えたい時は画像、動画も添付しましょう。

・形容詞の種類、バリエーションを増やして、そしてイメージを伝えるための画像なども添付する

これはどの言語でもわりとそうですが、「できるだけ具体化して伝えよう」は仕事して地味に一番感じたことだったかも。例えば担当プロジェクトの発注書はほぼ毎回とも言える頻度で「豪華な感じにして欲しい」という要望が来てたんですが、毎回「豪華」の方向性が違ったり、「豪華」のイメージがインフレーションしちゃったりします。

発注書に書いてあった要望をどう噛み砕いて調理するか、それこそがデザイナーの仕事なんでしょう?といえばそうですが、毎回「豪華」以外の形容詞がなかったのはとちょっと掴めないなーと思う時はしばしばありました。

例えば前回の「豪華」は仕様の合理性とシステム制限をそんなに重視しないで「とにかくアイテム自体の面積を大きく、そして金ピカにして」を求めていました。それを学習して次のコンペに運用したら、今度の「豪華」は実は「仕様重視でアイテムのシルエットはシンプルに、線数とエフェクトで情報量を増やしたい」ので、コンペのやり直しは不可避…みたいなこともありました。

タイトなスケジュールの中で工数と日数をより良くコントロールするために、発注書を作成する時点でイメージを使えるための画像も添付してくれたら助かります…!あと私は開発段階のデザイナーじゃない人が作ったコラ画像が地味に好きです。

・誤字や誤変換に注意

面白いことに「誤字と誤変換をちゃんと認識するのに、実はそれなりの日本語力が必要」なんです…!

なぜなら、もしそもそも正解が知らなかったら、それが誤字や誤変換だと気づくことができないんです。それだけでなく、いつもより多く時間を割って必死にその誤字や誤変換を解読しようとする可能性もあります。

残念ながら仕事のチャットログは退社とともに消滅したので例を挙げることはできませんが、同僚の話によるとだいたいの場合はタイプミスで出てきた今までの文脈と関係ない単語を、想像力で辻褄を合わせようとしてたらしい(?)

ちなみに私は「オセアニアってます」、「角煮します」のような明らかに誤字系は日頃のささやかな癒しで大好きでした。へへ。

・おまけ:日本特有のあいづち

チャットやメールじゃなくて会話の話ですが、日本の会話でのあいづちの頻度は中華圏と比べて遥かに高いと感じます。かなり感覚的ですが、日本語の会話は「、」があるタイミングであいづちチャンスが発生するんですが、台湾だとそのあいづちチャンスはだいたい無言の頷きで、話が全部終わった後に声を出す傾向が強い。

ある程度誇張して表現してますが、文字にするとこんな感じかな:

【日本の場合】

ふらっと入ったパン屋さんのパンがすごく美味しくて、(うん)

絶対リピートしちゃうやつ!って思ったけど、(うんうん)

それで三日後また行ったら無期限休業になっちゃって(えぇー!!)

そう!すっごくがっかりしたよー(そりゃそうよ〜)

【台湾の場合】

ふらっと入ったパン屋さんのパンがすごく美味しくて、絶対リピートしちゃうやつ!って思ったけど、(無言の頷き)

それで三日後また行ったら無期限休業になっちゃって(えぇー!!)

そう!すっごくがっかりしたよー(そりゃそうよ〜)

因為在路上隨便走進去的麵包店的麵包很好吃我就想說絕對要再去買!(無言點頭)

所以三天後又去了那家麵包店,沒想到店家竟然無期限停業,(咦——!)

對!我超失望的~(一定的吧~)

こんな感じで、台湾の場合は会話での文章の区切りが少なめで、相手の話が終わってからリアクションすることが多いですね。しかも日本とは逆で、台湾人同士だったらあいづちが多すぎると逆に「本当は真剣に聞いていなくて適当にリアクションをしているだけかな…」と思ってしまう傾向がちょっとあるかもしれません。相手の話が終わってからのリアクションはある意味「本当に私の話を聞いて理解しているかテスト」みたいなフシはあります。面白いですね。

今回の日本語、中国語二つの言語のある職場での仕事関連の話はいかがでしたか。仕事ですっかり慣れてしまったことを改めて違う視点から見てこうして書き出すと、意外と新しい発見もいくつかできて新鮮でした。使える場合と状況がかなり限定された内容で役に立てるかどうかわかりませんが、ちょっとした読み物として楽しんでいただけたら幸いです。

余談ですがツツリ中国語コラムは今のところ質問のストックがもう切れちゃってますんで、真面目な質問でもオタク的なニッチな質問でも中国語関連だったらなんでも遠慮なく気軽に送ってみてくださいね!!待ってるね!!

質問受付用のマシュマロ、コラム用のBlueSkyアカウントはこちらです↓

ちなみに今回の内容の1/4くらいは昨日のド深夜で東京→台北の飛行中に執筆してました。ちょっと出来る大人ごっこの感じしてて新鮮。

読んでくださってありがとうございました!謝謝🫶❤️

次回でまたお会いしましょう〜!

@tututu
台湾在住台湾人🇹🇼。バイリンガルってレベルではないのですが、ジャパン文化に浸りすぎて思考の6割が日本語で残り4割が母語の元日系会社ゲームデザイナー。せっかくの言語力なので、何か新しいことを試してみようと思います。