楽しくなくても面白いことはある

twelve12mentai
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※アニメ映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』のネタバレを含むのでご注意ください

先日ようやく『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を観ることができた。

個人的には「作者の没後に新解釈を出す」のはかなり難しいし、熱心なファンには受け入れられない人もいるんじゃないかとも考えていた。そもそも水木作品に親しんでいないぼくが観てもかえって申し訳ないような気がして、観ていなかったのだ。

そういった懸念はまったくの杞憂であった。

大戦後の日本に生きる人々を、令和の時代にここまで強烈に描くことができたのは、「新しい世代に受け継がれる」物語の展開と水木作品を受け継ぐ人々との重なりを感じさせる。時代の変化とともに変わっていくものがあるが、変わらずに残り続けていてほしい作品だと思う。

以下、よかったと感じたポイントについて。

まず、戦後日本の描写の出しかたが上手い。現在は自分の血液に値段をつけて売ることはできない(なので献血は無償でできる)が、戦後にはまだ法規制がなく、個々人が金目当てに自分の血を売っていたのだ。これを仲介していたのが「水木」が所属する「血液銀行」。序盤の列をなす人々は売血目的であり、戦後を象徴する描写としては優秀だと思った。また、建屋内での喫煙量の尋常でなさも特筆すべきだ。作中の「水木」はどこだろうと煙草を吸い、また吸おうとするが、喫煙規制の緩い時代ならではのこと。古い建築物では、今でも灰皿が残っている場所も探せばある。これら、特に「血液銀行」を使うのは、単に「ローテク」にしてしまうよりも描写が難しいものの、巧手のなせる業だろう。

次にストーリーについて。「水木」が背負った戦争の記憶を乗り越える流れと、「ゲゲ郎」が未来へ言伝を託す流れ、そして二人が、戦争の遺産により繁栄し未だなお私利私欲のために生き延びんとする人々を打ち倒す展開。これらの重なりも、複雑だが自然に理解できるのがよいと思った。消えゆく人々と受け継がれる未来、これは水木作品の継承という意味でも力点が置かれている気がする。

少し気になった点について。

映倫レーティングでは「PG12」とされているが、「R15+」でも十分だと思う。モチーフの難解さはさることながら、戦争や死者の描写の程度も重い。また、ほのめかし程度ではあるが性暴力も扱われており、低年齢層向けではなさそうだというのが個人的な感覚だった。劇場での観客層を考えても、レーティングで制限を付けて問題はないのではないかと思う。

といったところだろう。

総評。強いて言えば映倫レーティングの弱さが気になるものの、一本の作品として芯が強く、面白い。令和の今に巣立って育つ作品だ。

ありがとうございます。水木ィ!!!!!をしばらく引きずると思います。