ねこに選ばれないぞ

uchili0315
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公開:2024/8/20

すっかり日記の存在を忘れていた。

盆休み中、色々と作業を進めたかったが人形製作に3日間使ったらあまり他のことは出来なかった。人形は腕足をざっくり作ったが手足の指はこれからで、針金に糸を巻いてから粘土で指の関節や爪を作らねば…と思うと気が滅入る。顔は長時間いじっても終わりがないが、毎回そんな感じでギリギリまで粘ってしまう。今年は塗装や衣装に余裕を持ちたい。

休み中は比較的長く眠れたせいか、珍しく起床後も夢を覚えていた。

・前日に会うのが二度目の知人との予定を済ませたら、夢でも知人と会った。その時は知人の車に乗せて貰って移動したが、知人の妹、おそらく中学生くらいの子が助手席に乗っていた。知人は走行中に友達を見つけたからと言って車を止め、車内には妹と私が取り残された。妹は人見知りのようで、私が同乗していることが苦痛に見えたので私は車を降りた。少し歩くと、住宅地の景色はなんとなく昔の実家近所に似ている。築40年くらいの、コの字形の二階建てアパートがある。コの字の凹んだ部分が広く駐車スペースになっているが、舗装されておらず土と石ころがゴロゴロしていて粗末な印象だった。その中心に、大きな水たまりのような池が作られている。アパートの外階段から、猫が数匹降りてきた。猫たちはレオノール・フィニの絵に描かれているような長毛種のずんぐりと大きい体型をしていたが、脚は鳥類のそれで、猫版ハーピーという感じだった。猫のフサフサした毛並みを撫でたかったが、鳥の脚の鉤爪で引っ掻かれたらたまったものではない。池から泡が噴き出てくると、水面に蟹が現れ、何匹も水から上がってきた。朱色の蟹はタカアシガニに似ていて、甲羅は一抱えほどの大きさで脚はやたら長く、歩く時はなぜか甲羅の横から伸びてるはずの脚が全部下を向いてガサゴソのたうち回るので気味が悪い。たぶんこのアパートは無人の廃墟で、この蟹と猫ハーピーに支配されているのだろう。

・おそらくポルノ映像だろう。全裸の女を浅黒い肌の男が犯しているが、犯しているのは女の胸で、胸の中央にぽっかり丸く開いた穴に抜き差ししている。突然、その穴が上下に裂けて大地の亀裂のように女の胴が真っ二つになり、内側からぐわりとこじ開けるようにして漆黒の穴が生まれた。と同時に、突如出現した自分の身体よりも大きな-穴は女の身体よりも数倍の大きさで、真下に生まれたブラックホールのような虚空の中に男が落ちていった。胴体は花びらのごとく皮膚が襞となって巨大化し、その縁にはぎっしりと細かい歯が生えている。八目鰻の口みたいだ。女はニヤニヤと笑っていて、獲物の捕食に成功したことを示している。そこに黒髪の長い女が怒り狂いながら現れる。彼女はアルビノで、憤怒の叫びとともに髪が白く変わり、はだけた胸の中心から蛇の頭を出した。蛇は舌を出しながら、シャーッと息を吐く。これからこの2人は戦うと思うのだが(ホラゲー?)あいにく目が覚めてしまった。

変な生き物の夢の話をしてしまったので、ねこ話でお茶を濁す。

先週、初めて最寄りのららぽーとに行って買い出しをした。通りかかったペットショップでねこを発見し、欲に抗えず観察してしまった。耳の折れていない生後二ヶ月のスコティッシュフォールドで、ぴょんっ、ぴょんっ、と跳ねながら歩く。なんなんだこの動き方は…と目を見張っていると、店員が話しかけてきて動揺した。今までペットショップで接客されたことはないし、ねこを店で購入するつもりは微塵もないのだけど……

おにいさんもおねえさんもネコちゃん派ですか〜?(私も連れもはいとしか言えない) この子、今日デビューしたばかりなんですよ(販売開始をデビューと言うらしい) 今までネコちゃん飼ったことあるんですか〜?(実家で…)品種はなんでした〜?(野良が実家に住み着いたから雑種です…)デビューしたてだから、抱っこ第一号になって下さいね!(ここでアルコールスプレーを掌にかけられる)

タオルに胴をくるまれてショーケースから取り出されたねこは、今自分が何をされているのかわからないという顔をしていた。ねこを手渡されたがタオル越しの抱っこなのでねこに触れている感触はないし、子どもだから重さも感じない。数十万の値がつけられた正体を丸腰でホールドしている恐怖、人間の審美眼に叶う誰が見ても可愛いという感情しか生み出さない血統書つきの品種の、消費のための魅了が可視化されてる恐怖、実家の勝手に住み着いて生まれたねこたちの奔放さとの乖離、それらが一気に押し寄せてきて、流石に万年ねこ不足の私でも多幸感ではなく「怖…」という感情になり、連れにねこをパスした。連れも私と同じ顔をしていた。

ペットショップから逃げながら、我々は、あれは違う…おれたちの知ってるねこちゃんじゃない…雑種…その辺にいる自然体で媚びてないねこが一番…など呟きながら魘されていた。

ねこを飼いたいがために飼育可能な物件に引越して2年経ったが、未だにねこを飼えずにいる。保護猫や譲渡の情報も教えてもらったが、何匹かいる中から選んで連絡してくださいと言われた瞬間、躊躇してしまった。今までの人生、ねこは勝手にやってきて、我が家を気に入ってくれたから一緒に暮らしてくれていたのだ。私の家族は、たまたま近所のねこに「こいつらの家なら出産できるな」と安全判定されたから縁ができただけなのである。だからこちらから飼いたいねこを選別する、というのは気が引けてしまって、未だにねこを迎え入れることは叶っていない。

人間がねこをえらぶのではない。ねこが人間を選ぶのだ。

@uchili0315
怪談と人形と占いのどれかについて