サークルクラッシャーゆかり(すみせごの贄読んだよ)

uchili0315
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澤村伊智の比嘉姉妹シリーズは、刊行された作品は私にしては珍しく全部読んでいる。キャラクターが前面に出てるシリーズものは敬遠しがちで、アンソロジーで短編を読んだ時はそこまで引っかかったわけではないけれど、アンリミ解禁された際にぼぎわんから読み始めてみたら、1週間でさえづちまで一気に読んでしまい、すっかりファンになってしまった。

約1年ぶりの新刊は短編集で、ばくうどの続きにあたる長編も早く読みたい(真琴、どうなるんだ…)けど、今回収録のとこよだけはばくうどの後日談にあたる。

このシリーズは、どんな化け物やオカルト知識を扱うかホラーとしてのモチーフと、登場人物側が担う時事ネタ-かれらはどういう背景や問題を抱えているのかという人間社会側の事情の組み合わせ方がとてつもなく巧くて、新作すみせごでもそれがどんどん冴え渡ってきている。(モラハラ夫が登場するぼぎわんは約10年前に発表されたからこそ評価できる作品だし、ばくうどは因習村ブームへのアンサーと聞いて心躍った)正直、ベストセラーのホラー小説は既に「匿名掲示板の書き込みやSNSを切り貼りしてモキュメンタリーに仕上げる」がテンプレ化していて、ただそれだけやられても食傷気味だ(近畿地方とか変な家のことだよ!)

澤村アンテナはネット上に散らばる真意不明のネタやトロールじみた人々の群像に一歩踏み込んでいて、この人、そういうのを日々観測してんだなー、ツイ廃だなー、と感じつつ、作品では早過ぎず遅過ぎないタイミングでトピックを扱ってる点で信頼に値する。カレー屋の店主がパニック障害になった余計なオチをわざわざつけるくらいだし。あと、個人的に舞台が中央線沿線で土地勘がある場所ばかりなのが非常に助かる。デラシネが高円寺ではなく世田谷にあったらそこまで好きになれなかった。自分の文化圏が描かれる物語、というものへの愛着と言うべきか……。

今作は、不登校の中学生が目にする、大人の汚い(オカルト)業界内のいざこざ、いかさま霊視YouTuberと震災で亡くなった子供、飴買い幽霊と児童虐待、特撮オタク語り(こき下ろさないと霊障があるって発想なに?)、締切に追われてでっち上げた創作実話怪談への後悔(身につまされる恐ろしさ…)、料理教室という閉じたコミュニティでのカルト性やら親子関係の拗れ等、トピックは相変わらず幅広い。

すみせごでは稀代のクソ女・辻村ゆかりが出てくるので、どうしてもゆかりに意識が持ってかれる。ゆかりは後味悪い話に落とすための探偵役として適材で、彼女の真相究明っぷりは父に抑圧された娘を救いたいという善意ゆえと語らるけど、やった事はサークルクラッシャーでは…?ゆかり、何がしたいんだ……いやお前がやりたい放題するとそうなるんだね……うっすら毒を撒いて去る名探偵はまごうことなくヴィランである。絶対に関わりたくない。

@uchili0315
怪談と人形と占いのどれかについて