採用面接中に考えていること

uemura
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実は年間100回以上、採用面接をやっている。社内の面接環境は整っていて、選考フロー、評価基準、面接の流れなどすべて文書化されているし、面接官育成もしっかりしている。面接官になりたての頃は他の面接官が同席してフィードバックをもらう機会もあった。最近では教える側に回るようになっている。

採用面接では評価だけでなく、候補者への情報提供や動機付けなど多くのことを考える必要がある。またハロー効果など各種バイアスに惑わされず客観的な見極めを行うことや、構造化、半構造化面接といった手法を用いて限られた時間を有効活用することも求められる。

上記のような企業としての採用面接の話はここでは脇に置いておくことにして、私個人が採用面接中に考えていること、つまりただのポエムを書きたいと思う。

ひとりの人間として最大限の興味を示す

多くの面接官は採用候補者の本音を引き出したい。そこで様々な確度から質問を繰り出し、相手が用意していなかった答えを得ることで一定の本音を引き出せたと見なすところがある。

しかし、引き出された側に立ってみるとどうだろう。仮に発言が本音によるものだったとしても、自分の意図とは異なる発言を引き出されたように感じたり、誘導されたと感じる人もいそうだ。それって良い体験だろうか?

面接において相手が自然と本音を繰り出したくなる場を作りたい。そのためには自分に興味関心が寄せられていると思えることが重要で、根本にあるのは「ひとりの人間として最大限の興味を示す」ことだと思っている。

最近ではオンライン面接の機会が増えたこともあり、興味を持って聴くだけではラポールを築くことは難しい。興味を持っている事実をしっかりと示すと共に、個人として感じたことを共有することで、もう少し話してみようかなと思ってもらう。そうした小さな心がけを持って相手と接している。

最良のパフォーマンスを出してもらう

面接の中で緊張のあまり候補者が準備してきたことが飛んでしまったり、うまく話せずに消化不良に陥ることがある。実は企業側にとってもそれはマイナスで、せっかく良いものを持っていても見抜けずに終わってしまうのは勿体ない。

候補者が限られた時間でいつも通りのパフォーマンスを出すことは簡単ではないが、面接官が支援することで成功確率を上げることはできる。候補者にベストパフォーマンスを出し切ってもらうために私がよく意識している点を列挙してみる。

  • 相手の緊張度に応じてアイスブレイク量を調整する

  • オンラインでも話の相槌を打って会話にリズムを持たせる

  • 相手が言いたかったのに言えなかったことを要約して返す

  • 序盤の問い方にバリエーションを持たせつつ、相手の答えやすさを把握する

  • 相手がしっかり考えて答えようとしているときには「待ちます」と言う。実際に何秒でも待つ

自分を100%出し切ったと思うことができれば、仮に不採用になったとしてもまぁ仕方ないかと思えるし、企業にもポジティブな印象が残る。というのは虫が良すぎるかもしれないが、自分を出し切れなかったと感じさせない努力は怠らないようにしたい。

学びを持ち帰ってもらう

面接というのは対話の場でもあり、対話を通じて学びを得ることは良い体験をもたらすものだと思う。面接で得られる学びとは何だろうか。

ひとつは採用候補者の自己理解を深める点だ。特に学生で就職活動をはじめたばかりの頃などは、まだ自己分析が浅かったりスクリプトが固まっていなかったりと場慣れしていない様子が見られる(場慣れしていることが良いというわけでもない)。

特に自己理解が進んでいなそうだなと思ったときには、面接から面談にモードを切り替える。相手の気づきを促す問いを投げたり、相手の話を要約して「〇〇ということですね」と返すことで「そうそうそれ!」という表情に出会えることがある。もちろん、いつもうまくいくわけではない。

また企業理解についても面接は学びの場になり得る。熱心な採用候補者は説明会やWebページを通じて公開情報を知っていることが多い。逆質問などで企業についての情報提供をする場面で既知の情報を繰り返し提供するだけでは、一貫性の有無を伝えられるメリットはあるにせよ、新しい情報が得られたとは思わないだろう。

面接は個人対個人で見ると一回性、つまりこの場限りという性質があり、この場でしか得られない情報に価値があると私は考えている。企業側で準備した情報を再生するだけでなく、個人としてのエピソードを添えたり、私自身の考えを(前置きした上で)伝えるなど、ひとりの人間として接することを心掛けている。

最近では企業と人は対等な立場で採用活動に向き合う旨のメッセージングを多くみるようになり、面接は採用候補者が一方的に見定められる場から相互理解の場にイメージチェンジが図られている。とはいえ、面接を通じて学びが得られることを期待する人はあまりいないだろう。だからこそ、学びが得られた時に小さなサプライズとしてこの時間を記憶してもらえるのではないか。

なぜこんなことを考えるのか

私は30分や1時間そこらの面接で企業と人とがマッチするかを見極めることは不可能に近いと思っている。特に新卒採用の場合、学生がどこまで自己理解しているか、あるいは自己開示しているかを見極めることは難しい(最近の学生は驚くほど深く内省している人も多い)。ガクチカなどのエピソードがどこまで事実でどこからが脚色なのかを見分ける術はないし、見分ける意味もない。たまに合否は5秒で分かるなどの発言を見かけるが、時間をかけたところで結局分からないので第一印象に頼っているという意味合いも含まれているのではないだろうか。

では採用面接に意味はないのだろうか。もちろんそんなことはないだろう。採用活動の歴史の中で様々な手法が編み出され、淘汰され、その結果今でも生き残ったやり方だ。限られた時間の中で相互理解を深める手法として最良とまでは言わないまでも、それに近いものだと思う。また自社の採用面接は自分でいうのも何だがよく考えられているため、私が採用面接の是非について悩む必要はない。評価については決められたプロセスを忠実に守り、面接官による差分をなくし、再現性を持たせることに注力すればよい。

であるならば、私が採用面接に関わることで相手に提供できる価値とは一体何なのだろうか。流れ作業のように面接をこなしていくのではなく、私自身も面接を楽しむにはどうすれば良いのだろうか。個人としては、ついそういうことを考えたくなってしまうものだ。

@uemura_t
昔エンジニア、今は人事をしています。@uemura_HR