言われたことをそのままやらない

uemura
·
公開:2023/11/19

企業人事をやっていると年に4回くらい空(経営)からお題が降ってくることがある。季節ごとに1回はくるので年に4回と書いたが、人事部長を経て私の元に来るのがその程度であり、実際は日常的に発生しているのだと思う。

お題は概ねキーワードとしてやってくる。「キャリア自律」とか「人的資本」とか、そんな感じ。主語の大きい言葉を使ってしまったが、イメージを伝えるために簡略化した。実際にはもう少し具体的であることも多い。

今まで社内で聞いたことのないワードが出現する際には注意が必要だ。経営者はワーディングに物凄くこだわるので、その裏側には明確な意図が存在している。意図を含めて降ってくるとありがたいのだが、そうでもないこともある。やれやれ、またはじまったか。

対話からはじめる

私の元にやってくるお題は、答えのない状態でくることが多い。これをやってくださいと言われることはほとんどない。こういうことをやりたいらしいんですよねと言われて、ふーんそうなんですねと返す。そこからいくつか問いを投げて、今持っている情報を確認する。

答えのないものを題材に上司と対話をしていると、お互い宙ぶらりんな状態になる。宙ぶらりんのままだと気持ちが悪いので、お互い何か役立ちそうな情報を提供して地に足をつけようとする。そうした力学の中で、この仕事をどこから始めるかといった出発点が見えてくる。出発点が見えないこともあるが、それはそれで構わない、くらいの気持ちで臨むのが良い。

対話からはじめる良いところは、これからも対話をしていくことに暗黙的な合意がなされることだ。企画を考える際の最大のアンチパターンはひとりで抱え込んでしまうこと。「詰まったらすぐ相談しますね」「もちろんです」といった小さな合意は未来の自分に勇気を生むし、信頼にも繋がる。

自社のコンテキストを言語化する

次にやるのは、背景を整理し言語化すること。社外ではなく社内に制限して考えることが重要だと思っている。いきなり一般論に走ると、目的が薄まってしまう。なぜ、今それをやる必要があるのかを自社のコンテキストに沿って説明する必要がある。

経営、人事、現場それぞれで関連する事項に頭を巡らせ、パズルのピースを自分で集めにいく。情報が足りなければ、持っていそうな人を訪ねて聞いていく。一次情報を大事にする。そして、集めた情報を元に、ストーリーの序章を書くつもりで言語化する。

世の中に目を向ける

自社に振り切って言語化をした後で、世の中のことを考える。昨今の人事トレンドは海外から数年遅れで来ているものが多いため、USを中心に海外動向から関連トピックを掘り下げていく。また、いわゆる外資系企業と日系企業で前提が異なる部分をそのまま当てはまることはできないため、日系企業の動向も調べていく。

細かく調べすぎると時間を闇雲に使ってしまうので、情報収集は必要最低限に留めるつもりでやっている。全体の流れが自分の言葉で説明できればOKで、具体例を1つか2つ添えられれば十分だ。トレンドに流されないためにも、それくらいでちょうどいい。

たたき台をつくる

収集した情報を元に、背景、目的、ゴールあたりからばーっと企画書を起こしていく。筆が進むときは自力で書くし、進まなければChatGPTに叩き台を作ってもらう。ChatGPTは社内で安全に活用できる仕組みが整っている。私にとっては福利厚生といっても過言ではない。

この段階で企画書はあまり作りこまず、伝えたいことが読めば伝わるレベルになっていれば十分だ。どんどん書き換えていくことを前提にするためにも、叩きやすいくらいでちょうどいい。

対話とレビューを繰り返す

たたき台ができたら、上司に見せて感触を得にいく。今の上司とは何度もこうしたプロセスを重ねているため、大きく外すことはほとんどない。自分が想定していなかった視点をもらえたり、部分的に違和感がある部分をフィードバックしてもらうことが多い。

上司だけでなく、同僚にも1on1などで話題に出していく。特に別チームのメンバーは思わぬ視点をもたらしてくれることが多い。また、これからやろうとすることが何となく伝わるため、運用フェーズでチーム間の協力関係を築きやすくなる利点もある。

お題の質にもよるが、現場の人をつかまえて対話することもある。現場視点を得る機会は人事にとっては貴重だ。現場から見た際に違和感を覚える点は後々問題になることも多く、事前に障害を察知することに繋がることもある。一方で、意見を汲み過ぎると目的がブレることもあるため、バランスは難しい。

企画書として仕上げる

情報は十二分に集まっているので、あとは企画書のフォーマットに沿って淡々と仕上げていく。念のため上司に最終確認はしてもらうが、ここまで対話を重ねているので認識齟齬はほとんど起こらない。また上司以外にも協力してくれた人には企画書を共有し、これまでのお礼を伝える。意見を盛り込んだところを中心にフィードバックすると喜んでもらえることが多い。

言われたことをそのままやる、とは結局何なのか

許可を求める姿勢なのだと思う。この進め方で問題ないか、この方法は正しいか。例を挙げればきりがない。しかし思い出してほしい。そもそも答えのない仕事なのだ。上司に答えを求めれば、上司はその上司に答えを求めるかもしれない。そうした姿勢の先に明るい未来があると思わないのは、私だけではないだろう。

言われたことをそのままやらない。許可を求めない。その代わりに、みんなで答えを見つけにいく。そうした仕事の進め方を私は好んでいるし、その方が楽しいに決まっているのだ。

@uemura_t
昔エンジニア、今は人事をしています。@uemura_HR