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読み始める前は、MBTIやDiSC®のようなタイプ別診断系の話なのかなと予想していたが、違った。自己欺瞞という人間心理についての本だった。自己欺瞞とは「自分に問題があるということ自体が見えなくなる問題」のことだ。
興味深いのは、自己欺瞞のメカニズムの起点は自分への裏切りにあるという点だ。自分への裏切りとは「自分が他の人のためにすべきだと感じたことに背く行動」のことを指す。自分への裏切りはやがて自己正当化のために認知を歪めてしまう。そうしたプロセスを経ていくうちに、人は箱の中に入ってしまう。箱の中に入った者同士は、互いを手酷く扱い、互いに自分を正当化する。そして共謀して、互いに箱の中にいる口実を与えあう。箱同士が共鳴するかのようだ。
白状すると、私はこの本を読みながら、ここ最近の自分の言動について思い当たる節がいくつもあるなーと思っていた。仕事の面でもそうだし、プライベートでもそうだ。気まずい思いに少しだけ蓋をしながら読み進めた。そして、それらの言動には共通点があることに気付いた。
私は人の思考や感情に思いを巡らせることが好きだ。他者が何を考えているか、何を大事にしているかを敏感に察知することができる(と思っている)。また、日頃はそれをできるだけ尊重すべく行動している。
しかし、その行動ができなくなる時がある。それは相手の行動を優先することで、自分の人生においてやるべきことが先延ばしになってしまうと感じる時だ。人生という大袈裟な書き方をしたのは、自分のやるべきことを過大評価していることの現れなのだと思う。信念と言っても良いのかもしれない。
私が自分の信念よりも他者を優先することができない時に、私は箱の中にいる。その自分への裏切りを正当化すべく、より自信を深める言動を取る。時には周りをも巻き込もうとする。そしてやるべきことに集中すればするほど、周りが見えなくなっていく。
もちろん、自己認識がないわけではない。何か雰囲気が良くないぞ。周りがついてこれてないぞ。私は気づいている。けれど、そうしたことを一過性のものとして取り扱ったり、目を瞑ろうとしてしまう。自分のやるべきことに集中させてほしい。箱の中だ。
運良く箱の中にいることに気づき、その状況を変えたいと思った時、何をすれば良いのだろうか。いったん落ち着いて、箱の外に出るためにやっても無駄なことについて眺めてみよう。ここも興味深い。
相手を変えようとすること
相手と全力で張り合うこと
その状況から離れること
コミュニケーションを取ろうとすること
新しいテクニックを使おうとすること
自分の行動を変えようとすること
前半は事前に予想した通りだったが、後半、特に最後のひとつはふむ、と手が止まった。もう少し読み進めると、以下の文章に辿り着いた。
「自分のことを考え続けている限り、箱の外には出られない。箱の中に入っているときは、たとえ自分の行動を変えようとしたところで、結局、考えているのは自分のことでしかない。だから、行動を変えても駄目なんだ」
ああ、そういうことか。箱の中にいる時、私は自分のことばかり考えている。自尊心が必要以上に高まっている。そこで取る行動は、空回りするか、周りを強引に巻き込むことになるが、結局はうまくいかない。もしくは、うまくいったと自分に言い聞かせ、認知を歪めていく。一体、箱の外に出るにはどうすれば良いのだろうか。
目の前にいる人々が常に持っている基本的な『他者性』、つまり相手は自分とは違う一個の独立した人間であるという事実と、目の前にいるのとは別の人たちとともに箱の外に出ているあいだに学んだこととが相まって、相手の人間性が、わたしたちの箱を突然突き通す瞬間があるんだ。 その瞬間に、自分が何をなすべきかがわかり、相手を人間として尊重しなくてはならないということがわかる。 相手を、自分と同様きちんと尊重されるべきニーズや希望や心配ごとを持った一人の人間として見はじめたその瞬間に、箱の外に出るんだ」
なるほど、自分に向けるまなざしと同じ重要度で他者を見るということか。実体験に当てはめてもしっくりくる。自分への重要度が高すぎる時に私は箱の中にいる。そうでないときは箱の外にいる。完全に理解した。そして同時に、それってこれまでも理解していたはずなのでは?と思った。
週末、家飲みしながら妻にこの話をしてみたところ優しい口調で「たしかに、そういうところはあると思うよ」と言っていた。そういえば、会社の人がおすすめしてたよーと、さり気なくこの本を薦めてくれたのも妻だった。特に意図はなさそうだったが、もしかすると最近の私を見て何かリンクするところがあったのかもしれない。
今この本に出会えて良かったと思っている。仕事でもプライベートでも、ここから来年にかけて私にはやるべきことが沢山待っている。今までよりも一段忙しくなりそうだ。頼りにされる場面も増えるだろう。そしてやるべきことに邁進している時の私は、そうでない時に比べて箱の中に入る機会が多くなる。その気付きが未来をどのように変えていくのか、見届けていきたい。