静かな夜

胸が騒がしい。

ざわざわする。

僕はいつの間にか、人混みから少し離れた路地で壁に背を預けてしゃがみ込んで空を覗いた。

少しでも落ち着かせようと街を歩くことにしたんだが、少し疲れてしまった。

今日は金曜日だ。

街に休日の前の独特な陽気な空気が漂っていた。

僕はゆっくり立ち上がり、駅に向かう。

陽気な街は嫌いじゃない。

ハッピーな空気が伝わってきて、自分の体の芯に響くんだ。

でも、今日はその空気を楽しめない。

胸が騒がしいのは、その空気が伝わったからではないのは分かっていた。

帰りたくなかったんだ。

すれ違う酔っ払いを横目に、足が速くなる。

帰りたくない。だけど、陽気な空気を纏う人とのすれ違いはもっと嫌だった。

いつもは帰りが楽しみで仕方がなかった。

ガチャっという音と共に、ドタドタと聞こえる音。

開く扉に引き込まれた風と引き換えに喜びの空気が自分に降り注ぐ。

でも、今日はそれがないんだ。

分かるかい。

いつもの喜びがないんだ。

昨日、愛犬が亡くなった。

@ugo
短い短い小説を書きます。 たまに、ちょっと多めの短い小説を書きます。