2024年1月11日、アメリカでビットコイン現物ETFが承認された。その少し前に、インデックス投資の普及に尽力した経済評論家の山崎元さんが亡くなった。このふたつは、資産運用という点でウヒロのなかで結びついている。
ウヒロが資産運用を意識したのは、2020年代のコロナ・パンデミックの最中だった。「対策」の名のもとに、あたかも無尽蔵であるかのように税金が使われていくのを目にし、その先に待ち受けている円安に恐怖した。未来で生き残るためには、経済と資産運用を学ばなければならないと思った。
資産運用について調べていたときに知った人物こそ、山崎元さんだった。山崎さんはインデックス投資の優位性を説いていた。インデックス投資とは、インデックスファンドと呼ばれる商品に投資することである。この商品は、多くの企業の株をパッケージ化したものだ。インデックスファンドを購入するだけで、複数の企業に分散投資していることになる。そのなかでも、山崎さんは「オルカン」の愛称で知られる全世界株式インデックスを強く推していた。オルカンを購入するだけで、アメリカを中心としつつ、その他の国々にも投資でき、バランスの良いポートフォリオになるからだ。さらに、もしアメリカが衰退して他の国が経済発展したとしても、オルカンは運用会社のほうでポートフォリオの配分を変更してくれる。
株式投資の世界では、もうプロの投資家の大半は、長期投資ではインデックス投資に勝てないと分析されている。分散投資に批判的なウォーレン・バフェットでさえも、初心者に対してはインデックス投資を勧めているほどだ。山崎さんの提案は、初心者に優しく、かつ長期で見ればプロよりも高いパフォーマンスを出すことができるという点で素晴らしかった。
そこでウヒロも、オルカンの購入を開始した。貯金を一気に投入するのではなく、「ドルコスト平均法」と呼ばれる手法で買い進めた。ドルコスト平均法とは、毎月決まった額を購入することである。好況のときも不況のときも決まった額を購入することになるため、長期で見れば購入単価を平準化させることができる。これにより、わざわざタイミングを見図る必要がなく、インデックスファンドが成長した分の利益を享受することができる。ドルコスト平均法による投資は、一般的に「積立投資」と呼ばれている。
積立投資をはじめたウヒロであったが、不安は消えなかった。なぜなら、インデックス投資にはふたつの弱点があったからである。
1つ目……インデックス投資を行うプレイヤーが増えるほど、投資の効率性が低下すると考えられる。これに関しては次に引用する文章のとおり。
――インデックス投資のどこに死角があるのか。
香月:そもそもインデックス投資は自己矛盾を抱えている。たしかに仮にインデックス投資家が存在しない世界が存在すれば、そこではインデックス投資が最も効率的な投資手法といえるかもしれない。しかし、インデックス投信の購入を実践するプレイヤーが増えるほど、実はインデックス投資の効率性は低下する
多くのインデックス投信は、単純に市場に出回る企業銘柄の時価総額の大きいものをより多く買う、証券投資理論でいう『時価総額加重平均』の考えに基づいて投資、運用する。だが、その理論は市場参加者全員が、割高な銘柄を売り、割安な銘柄を買うという経済合理的な動きをすることを前提としている。
インデックス投資家が増えると、時価総額の大きい銘柄は多く買われることで割高となり、時価総額の小さい銘柄はあまり買われず割安なままとなることで二極化が進み、マーケットの歪みが加速度的に増大してしまう。
2つ目は、世界同時的な恐慌に対しては無力という点である。どこかひとつの国が不況になった程度ならファンド内の銘柄を入れ替えることで対処されるが、同時多発的に起こったとなれば、どうしようもない。
これらふたつのうち、特に2番目がウヒロには気がかりだった。インデックス投資の理論は、今後も世界的な経済変革は起こらず、ただ市場は右肩上がりに成長していくという楽観論に過ぎないのではないか……?
もちろん、インデックス投資の理論家たちもこのような批判は承知しており、それに対する反論として、ポートフォリオにインフレ耐性のある資産を組み込むことを奨励していた。代表的な資産として債券が挙げられていたが、ウヒロはいまいち債券を信用できなかった。「現金(法定通貨)でバランスを取ればいい」という意見もあったが、円安が進むと見られる局面ではありえない論だった。
求めていたのは、世界大恐慌に対してリスクヘッジになり、かつリターンも期待できるような資産だった。それを探し続けた結果、ついに発見した。それこそがビットコインだった。
正直なところ、一番最初にウヒロがビットコインを購入した段階では、まだ半信半疑だった。ただちょうどウクライナ戦争の勃発があり、その流れでふと「そういえばこういう状況のとき、ビットコインは強いと聞いたな」という程度の意識で、少しだけ購入してみたに過ぎない。
その後、「中身がよくわかっていないのに保有を続けるのは良くないな」と思い、書籍やWEB等でビットコインについて勉強してみた。
そのうち、これが想像以上の発明であることがわかってきた。SNSでは「金融史の特異点」と呼んでいる人もいたが、本当にそのとおりだと感じた。ウヒロの印象では、ビットコインは金をモデルに設計されている。金の特性を非常によく抽象化し、長所を取り入れ、短所は可能な限り排除されている。「物体」という枷から解き放たれた金のようだった(金は物体だから価値があるのだと主張する人がいるが、それは誤りである。物体であることは、むしろ金の欠点だ)。
肝心のパフォーマンス面もよかった。「ビットコインはボラティリティが高いから保有には向かない」と言われることが多いが、実際には、数年以上の長期保有ならばビットコインは常にリターンを上げている。ボラティリティは、短期~中期で売るつもりの人なら気になるかもしれないが、インデックス投資家のように、最初から数十年スパンで保有するつもりなら関係がない。そして重要なことに、ビットコインの長期リターンはプロの投資家はもちろん、インデックスファンドのなかで最強に位置づけられる「S&P500」すら上回っている。
ビットコインは厳格な金融規律を採用しており、総供給量も決められている。このため、非常に高いインフレ耐性を持つ。しかも、市場に登場してまだ十数年であるため、今後さらなる伸びしろが期待できる。今、ビットコインを買うことは、たとえるなら金が発見されたばかりの頃に金を購入するようなものである。
これこそウヒロが理想とした資産だった。そのことがわかってからは、オルカンの積立は停止し、かわりにビットコインの積立を開始した。また、オルカンそのものを取り崩していき、徐々にビットコインへ変えていった。今では最低限の現金だけ残し、あとの資産はすべてビットコインオンリーにしている。
よくある懸念点として、ビットコインを日本円に換えたときの税金が高いことが挙げられているが、ウヒロにとっては、もはや日本円は利確先ではなく、逆に日本円をビットコインに換えることを利確と見なしているので、そんなに気にしていない。もしビットコインを取り崩すとしたら、決済に必要な分だけを取り崩す。日本の税制上、ビットコインを日本円に換えたときの金額が大きければ大きいほど税金も高くなるが、必要最低限の分だけならそんなに気にならないだろう。もちろん税制が悪化する可能性もあるが、最悪の場合はビットコインフレンドリーな国へ移住する腹づもりだ。
こうしてウヒロはビットコインに対する確信を強めたのだが、アメリカで現物ETFが承認されたことは、同じような確信を抱く人を増やすだろう。世界最大の投資会社であるブラックロックは、なぜ何度も現物ETFを承認するようSECに迫り続けたのか。その謎を探るうちに、ビットコインのポテンシャルに気づくだろう。
ビットコインの購入を決断した人には、ドルコスト平均法の知恵が役立つだろう。それは山崎さんのようなインデックス投資の理論家たちが伝えてきたことであり、仮にインデックス投資自体が夢から虚空へと消え去ったとしても、知恵は別のかたちで生き続けるだろう。
おまけ:ビットコインのドルコスト平均法シミュレーター