2024年9月、東京のビットコインカンファレンス開催まであと1週間というタイミングで、ビットコイン関連の新書が邦訳された。タイトルは『ビットコインなんて必要ないと言う幸運なあなたへ:今、世界各地で起きている平和な革命の内幕』(原題『Check Your Financial Privilege』)。著者はビットコインを通じて人権活動を行うAlex Gladstein氏。邦訳は『ビットコイン・スタンダード』をはじめ、多数のビットコイン関連書籍を日本語に訳してきた練木照子氏が手掛けた。
本書は主に、経済的に恵まれない国々の人々がビットコインを活用して生活を改善していく様子に焦点を当てている。スーダン、エチオピア、ナイジェリア、パレスチナ、キューバなどが例として挙げられる。日本のような恵まれた国では実感しづらいかもしれないが、ビットコインは着実に、そして徐々に世界を変えつつある。
また、本書は先進国が享受する「経済的特権」にも言及している。端的に言えば、今日の国家間格差は政治権力と米ドル基軸体制によって維持されており、日本人も無自覚のうちにその恩恵を受けている。誤解を避けるために付け加えると、格差の存在自体は自然なことだ。人間の才能や環境は本質的に不平等であり、完全な平等は不可能である。しかし、権力や暴力によって格差が固定化されているならば、それは紛れもなく特権と言える。
さて、ビットコイン界隈で頻繁に話題に上がるエルサルバドルについても、本書で触れられている。しかし、一般的なビットコイン支持者とは異なり、ブケレ大統領に対して批判的な視点を提供している。同国のビットコイン運動の発祥地は、ブケレ大統領ではなくエルゾンテという小さな漁村だったこと。彼の功績とされる治安改善も、実際には大統領就任前から殺人件数が減少傾向にあったこと。さらに、自身の権力を強化する一方で、政府の権力を弱めるビットコインを採用するという矛盾点を指摘している。
著者の懸念は理解できる。私自身は現時点でブケレ個人に好意的な見方をしているが、それでも権力の集中には危険を感じざるを得ない。仮にブケレが真に善意の人物だったとしても、次の大統領やその後継者が同様であるとは限らない。大統領への権力集中が進めば進むほど、大統領職はエルサルバドルにとって単一障害点となりかねない。
ブケレ大統領の長期的なビジョンは不明だが、今後も注視していく必要がある。
とはいえ、ビットコインが実際に有益に活用されている実例を知ることができたのは収穫だった。日本ではビットコインの普及が進んでいないが、これは経済特権を享受し、政府や中央銀行といった公的機関を信頼しがちな国民性を考えれば無理もない。しかし、不換紙幣自体が限界に直面しつつある現状を踏まえると、いずれ大多数の日本人も気づく時が来るだろう。「ビットコインなんて必要ない」という幸運な状況は、やがて終わりを迎えるのだ。
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