どうかどうか助けてください、と両手を合わせながら仕事をしています、毎日。
職場に置いている歯ブラシが明らかに寿命を迎えているが、家にいる間に職場のことを一切思い出さないため、替えを買い忘れ続けている。毛先が完全に開いた歯ブラシは、歯と歯の隙間、歯と歯茎の隙間を器用に全て避けていく。何を聞いても答えの軸が一本ずれている、すっとぼけた爺と喋ってるときのような気持ちで歯を磨く昼休み。
数週間前、母親を殺してくれ、と殺し屋に依頼する夢を見た。私と殺し屋は母親が住むマンションの真向かいにあるビルの屋上にいて、私は母親の頭に狙いを定めて銃を構える殺し屋の姿を隣でみていた。
殺し屋は気さくというか、やけにこっちに話しかけてくる明るい男で、銃を構えながら「なんで依頼したの?」「お母さんいい人そうじゃん」とか言って、いつまで経っても撃とうとしなかった。早く撃てよと思いながら、しかしこいつの機嫌を損ねて依頼を反故にされても困る、と雑談に応じているうちに、母親との思い出が溢れてきて、私は涙が止まらなくなっていた。
お母さんは私の誕生日にご飯がおいしいお店に連れてってくれたんだ。そこは鶏肉の鉄板焼きを頼むとね、鉄板に残った油を使って無料でチャーハンを作ってくれる店だったんだ、そのチャーハンがおいしくておいしくて嬉しかったんだ、やっぱりわたし親のことを殺してほしくない、思い出たくさんあるもの、今回の依頼はなしにして!と泣きわめく私。
そうして夢が終わり、ゆっくり浮上していく意識の中、現実に目尻に溜まっている涙を感じながら
「塚田農場でやってたサービス……」
と、思った。
塚田農場という居酒屋では昔、鶏の鉄板焼きを頼み完食すると、鉄板に余った油で少量のチャーハンを拵え、無料で持ってきてくれるサービスがあったのだよ。大学生のころに一度だけ行った。親とは一度も、ない。
塚田の無料チャーハンサービスはいつの間にか消えてしまったという話をネットラジオで聴き、この夢の話を思い出したので書きました。
なんのこっちゃ。
おやすみっ