3月1日

　退職願をノートに挟んでカバンに入れ、いつもよりすこし早めに家を出る。暖かくなってきたとはいえ朝はまだ寒い。電車の中で退職交渉のシミュレーションを繰り返す。オフィスビル、エレベータには乗らず階段を上がり、オフィスに入る前にカバンから退職願を取り出して懐に忍ばせた。胸に風船が詰まっているような感覚で、喉も硬い。朝一で上司の予定を押さえるつもりだったが、席にいなかった。急遽予定が変わり、出社せずに名古屋へ向かうらしい。この日を逃すと再来週まで直接会う機会はない。拍子抜けしたが、対面で伝えずに済むことにすこし安心してもいた。オフィスの隅で懐から白い封筒をさっと取り出してノートに挟みロッカーにしまった。slackで、話したいことがあるのでお時間くださいと投げて、夕方にzoom打ち合わせが決まる。大谷が結婚発表してからまだ24時間も経っていないので、結婚しました、相手は日本人女性です、と言ったらウケるかもしれないと思った。